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これからの「正義」の話をしよう いまを生き延びるための哲学【感想】

 評判のいい哲学書ということで購入しましたが、思ったよりずっと素晴らしい本でした。これほどまでに分かりやすい倫理の教科書は初めてです。

 

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 

 ハリケーン時の便乗値上げ、パープルハート勲章にPTSDはふさわしいか、妊娠中絶の是非、など主にアメリカで実際におきた思想のぶつかりあいを通して「正義」を考える本です。「正義」の要素を福祉・自由・美徳に切り分け、功利主義リバタリアニズム、美徳の保守などの政治思想を紹介していきます。翻訳もきれいでスルスル読めました。

 

 具体的な事例が目の前にあるので、読む途中でじっと考え込まずにいられません。私は基本的に功利主義なのですが、持論の矛盾をつきつけられギクリとする場面も多々ありました。逆にリバタリアンの夫が何を考えているのか、この本に説明され合点がいったところも沢山ありました。様々な思想を知ることは、いろんな人と仲良くなる可能性を開いてくれると思います。

 

 大学で医療系だったため、生命倫理や研究倫理の講義もたくさん取りました。正義の講義をおこなうのはとても難しいことです。「倫理に正解はない」そのスタンスを口では言っていながら、本当に正解なしであれた先生はほとんどいませんでした。気に入らない意見にばかり反論したり、講義をひとつの結論に収束させようとしたり。

 しかしこの本は、すべての思想について美点と欠点を指摘し、よりよい正義に近づこうとしていました。何よりフェアだったのは最後に「完全な中立はありえない」と作者本人の政治思想、この本にかかっていたバイアスをちゃんとネタばらししていたところです。

 

 倫理・政治・哲学に興味はあるけど戸惑っている、そんな人に最初の一冊として強くおすすめできる名著です。

 

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)