千住のコンテンツ感想ノート

美術展・ゲーム・書籍等の感想

【開かれる無知の知】あなたの知らない脳--意識は傍観者である【感想】

Twitterで興味深い引用文をみかけて以来、ずっと欲しいものリストに入っていました。誕生日に贈ってもらい、あまりの面白さに一気読みしてしまいました。

 

あなたの知らない脳──意識は傍観者である (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

あなたの知らない脳──意識は傍観者である (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 ↑訳者は神経学者オリヴァー・サックス著「音楽嗜好症」「幻覚の脳科学 見てしまう人々」などを手がけたかた。表紙の時点で名著なのが確定してるぞ。

 

構成としては、脳の基礎知識を簡単な実験をまじえながら紹介し、意識の内分泌や遺伝の影響について切り込み、その知識をもとに「有責性とは」という社会的な問題まで深掘りしていきます。いずれの章も豊富な参考文献と実験・症例をもとに描かれており、作者の見識の深さが伺えます。特に「その症例から、何が言えるか」「その事例から、どんな考えが導かれるか」を誘導していくことに長け、目から鱗を落とすことに特化された作りでした。

 

専門的な内容のわりに難しくなく、高校生程度の理科の知識と、ネットニュースで流れてくる程度のパソコンやAIの知識、あとアメリカと日本の法制度の違いを軽くおさえていれば読み進めることができます。めっちゃ構成と文章がうまい。

 

なかでもやはり本書のメインである意思と有責性と犯罪の話が印象的でした。脳腫瘍によって大量殺人事件をおこした人。パーキンソン病治療薬の副作用でギャンブル依存になった人。彼らの「ほんとうの人格」はどこにあるのか、現代の科学はたどり着けていない。その前提を得ることで自己責任を強く求める人は優しく、優しすぎる人は冷静になれる気がします。ただ知的好奇心を満たすだけでなく、社会を大きく変えるため世に出た本であることをひしひしと感じます。

 

我々の行動は意識によって完全に支配されているわけではない。邦題にサブタイトルになっているそれを、目を逸らせない衝撃的な症例と実験の数々がつきつけてきます。世界の見方がコペルニクス的転回をする心地よい体験を保証してくれる名著です。