千住のコンテンツ感想ノート

美術展・ゲーム・書籍等の感想

【海浜の人工生命】テオ・ヤンセン展【札幌芸術の森】

 いつかネットのどこかで見た、巨大なアート作品が海辺を軽やかに駆ける動画。忘れられなかった彼ら「ストランド・ビースト」が札幌に来ると知り、お金を貯めて見に行きました。 

 


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↑アニマリス・ペルシピーレ・プリムス

彼女の顔と「内臓」。ペットボトルに空気を溜め、それを使って動くとか。

 

 「ストランド・ビースト」は塩ビパイプで作られ、風を受けて動くアート作品です。というのはあまりに冷めた見方で、作者は彼らを本当に命として創造しているようでした。冬の間に製作し、春になると海辺に離し、改良を重ねる。進化しきったと思うと墓場に連れて行き、死なせる。そしてまた次の春に、パーツや設計の一部が新たなビーストとに引き継がれ生まれ来る。

 作者亡き後も浜辺で生き続けるビーストを目標に生みだし続けているそうです。

 

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↑ストランドビーストの系統樹

本当に生き物として扱おうという強い意志を感じる。作品名もかなり学名っぽい。

 

 一度死なせたビーストなので、展示室にいるのはすべて「化石」なのだそうです。動作実演もあったのですが、それは「リアニメイト」と呼ばれていました。世界観があつい。本当に生き物を作ろうとしている。

 


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↑アニマリス・プラウデンス・ヴェーラ

アニメイト(動作実演)で歩いてくれた子。100kgとは思えぬ滑らかさで動くが、前にしか進めない。後世代の子は方向転換や水辺感知ができる。

 

 


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↑アニマリス・オムニア・セグンタ

本邦初公開とのこと。この子も実演で動いてくれた。搭載機能が多く「全てを持った・二番」の名を与えられている。アングルが微妙なのは人だかりができていたため。

 

 

 解説職員さんが作者からの伝言として「この部屋にはストランドビースト菌がいて、あなたはすぐにストランドビーストを創ってみたくなる」と茶目っ気たっぷりに言っていたのも印象的でした。ビーストの基本的な作り方はネットで公開されており、各地で新たなビーストが生まれているそうです。自身の亡き後も生き続けるビーストという作者の目標は、ネットミームとしてもう既に達成半ばなのではと思いました。

 

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↑ミニビーストのキット

私もビースト菌にやられたので買ってきました。

 

  生きたい。生き「残し」たい。この世界に自分がいた形跡を。そういう気持ちから創作に臨んでいる人は私の知り合いにも、作品しか知らない創作者にも多くいます。そんな中でも、死の超越への憧れがここまで純粋に強く現れている作品群は初めてでした。次に見るとき彼らがどこまで生き物になっているか、とても楽しみです。