千住のコンテンツ感想ノート

美術展・ゲーム・書籍等の感想

四畳半神話大系【ネタバレ注意】

抽選の競争率は頭ではわかっているのですが、むしろ抽選に応募するのを理由にして本をいっぱい買ってしまうから出版社の文庫フェスはこわいです。そうして買った本の一冊となります。

kadobun.jp

夜は短し歩けよ乙女』『ペンギン・ハイウェイ』など映像化作品でも名を馳せている森見登美彦先生。実はまだどれも未読だったため、並行世界ものだよと勧められた本作を手に取りました。

四畳半神話大系 (角川文庫)

四畳半神話大系 (角川文庫)

 

 あらすじとしては、ひねくれた大学三年生である主人公が騒動に巻き込まれる話です。大学生活の前半を「棒に振った」と表現する主人公ですが、側から見ればそれもかなり楽しそうです。大学生男子らしい理想主義とひねくれを持った彼は、腐れ縁の妖怪みたいな男・小津に振り回されるようにして暮らし、ついに大事になるといったところでしょうか。

 

同じあらすじで、しかし入学当初に選んだサークルが違うばかりに巻き込まれる騒動が違うという内容で毎章が綴られていきます。そのサークルを選んでも、主人公は前半を棒に振ったと感じ、小津に振り回され、明石さんというクールな女性と恋を実らせます。住居も散らかった四畳半に大差ありません。

 

そして最終章で主人公自身がそれに気付きます。ドアを開けても四畳半、窓を開けても四畳半という空間に迷いこむのです。四畳半を八十日かけて旅するうち、それらが自分の並行世界であると、どんな選択をしても似たり寄ったりの生活を送っていると、主人公は気付きます。四畳半迷宮で集めた千円札で多少リッチになり、日常の幸せに泣きながら馴染みの屋台ラーメンを味わって物語はエンドに向かいます。三章にわたる仕掛けを暴露するだけでなく、気付きをハッピーエンドにまとめていってるのが技巧的で、爽やかな読後感を残します。

 

本作なによりの見所はその文体でしょう。主人公の一人称視点で、ひねくれているけれど軽妙な、嫌味だけれど後腐れない文章で騒動が綴られていきます。現状に不満があると言う主人公ですが、毎章末を締めくくる「僕なりの愛ですやい」という風情が端端から滲み出ます。この空気感はなかなか出せるものではありません。

 

物語全体を動かす、理想と現実の間で四苦八苦する、精力に溢れた大学生らしい鬱屈。解説を読むとそれはデビュー作である『太陽の塔』から引き継がれたものであるそうで、思わず読了後すぐ『太陽の塔』を購入してしまいました。それくらいおもしろかったです。

f:id:senjunoriko:20200708084416j:plain

こちらは新潮文庫。新潮もフェスをしていて、かわいい栞がもらえます。

四畳半神話大系ノイタミナ枠でアニメ化もされているそうです。クオリティに嘘がないノイタミナ枠。観てみたくなりました。すっかり森見登美彦のファンです。

 

四畳半神話大系 (角川文庫)

四畳半神話大系 (角川文庫)