Twitterで名著と評判だったので買ってみました。予想以上の名著でした!
私は精神科の入門書を読むのが趣味です。学問として新しいこの分野は数年、いや、毎年といっていいほどのペースで概念の刷新が起き、新しく刊行された入門書に毎年驚かされています。その中でも群を抜いている本でした。
第1章だけでも主観と客観と対象化、了解(傾聴)、間主観性、転移と逆転移、学問分野による解像度の違い、障害の社会モデル、医療パターナリズムの廃止、などなど解説してから相模原の事件にふれ「あなたは『優しさ』で医療者を目指してはいないか」と問題提起しており、概念の濃縮エキスみたいです。これだけの概念を得て思春期を迎えられたらどれだけ科学的な実のある優しさを育てられるでしょうか。
病気の各論となる第2章もすばらしく、中学生の読み手がわかってくれるという圧倒的な信頼をもとに書かれています。三大精神病(この概念自体がもうだいぶ古いですね)をカイロス時計の異常として解説することを厭わず、精神障害の中で正常に向かいたい心理がボタンのかけ違えのようになっていく様をていねいに描写しています。精神障害者に相対した健常者が「神経伝達物質がどうとかじゃなく何を考えているかわからなくて怖い」と恐怖する、その社会を変える大きな一手となりそうでした。
正しい知識が共感の源泉と知る。相手の理解力を信じて、概念をわけあたえる。そのために筆致を尽くす。
科学者として、医師として、そして文筆家としてもまばゆい姿勢で書かれた本でした。