千住のコンテンツ感想ノート

美術展・ゲーム・書籍等の感想

【葦の生き様】トゥルーマン・ショー

認知症者の徘徊防止として老人ホームに偽のバス停を置くことの是非について……というペーパーを読んでいたところ「トゥルーマン・ショーのようになってしまう」といった一文がありました。見たことのない映画なのでググってみたところ、原案がGattacaの監督とのこと。Gattacaのファンだった私はさっそく観てみることにしました。

 

あらすじとしては、30歳の青年トゥルーマンが「この世界は作り物だ」と疑い挑む話です。それだけだとカプグラ症候群などと並び統合失調症にありがちな妄想ですが、視聴者には最初から、彼の人生が巨大なセットの中に用意された24時間放送のテレビ番組であることが明かされています。

トゥルーマンがいつも通り出勤しようとした朝、どこからともなく大型の照明が落ちてきます。そのライトには「SIRIUS」と書かれていました。画面から見切れていましたがcanisという字も見えたので、大犬座シリウスと書いてあったのでしょう。それを機にトゥルーマンは学生時代あこがれの女性に「この世界は作り物だ」と言われたことを思い出します。重なる機器トラブルなどより、トゥルーマンは疑惑を深め、世界からの脱出を試みます。

 

「憧れの女性にまた会いたい」「真実を手に入れて自分の人生を生きたい」という二馬力で世界に挑むトゥルーマンの情熱がまっすぐな没入を与えます。それもそのはず、平和な世界で愛されて育ったトゥルーマンは、素直でお茶目な青年……というテレビのための仕掛けがそのまま映画としての仕掛けになっているメタ性がすごいです。いつの間にか映画の視聴者も、映画内にいるテレビの視聴者のようにトゥルーマンを愛するようになるのです。

 

トゥルーマンが最後に対峙する相手が監督であるのも素晴らしかったです。海の果てにあるセットの出口へ辿り着いたトゥルーマンに、監督は太陽型の照明の中から語りかけます。誰だと問われ「I'm a CREATOR」と答える監督。これが「創造者」とのダブルミーニングであることは言うまでもありません。まさに神との対峙でした。そして神たる監督もトゥルーマンを心から愛しているのが数々のシーンから知れています。大いなるものから世界を勝ち取る物語は数ありますが、この関係性は新しく、食い入るように見てしまいました。

 

トゥルーマンが出口を抜けて番組が終了した途端、新聞の番組表を見ようとする視聴者のカットが入りますが、一見冷徹なこのシーンこそトゥルーマンが「キャラ」から「人」へと変わった何より温かい結末だと感じました。

 

「視聴者」と「キャラクター」についての鋭い感性が生んだ作品でした。公開は1998年だそうですが、今後何年経っても色あせることはないでしょう。

 

トゥルーマン・ショー (字幕版)

トゥルーマン・ショー (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video