千住のコンテンツ感想ノート

美術展・ゲーム・書籍等の感想

【多様性の混沌を生きる】六本木クロッシング 往来オーライ!

近年の世相と現代アートを振り返る一大展示、六本木クロッシング。その2023版が開催と聞き、飛んでいきました。

 

往来オーライのサブタイトル通り、訪れた六本木は往来が回復しつつありました。コロナ禍で行き来が制限され、逆説的に向き合うこととなった隣人の多様性。そんなテーマで集められた作品たちは非常に密度の高い混沌でした。

 

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【青木千絵/BODYシリーズ】

発泡スチロールに漆をコーティングした彫刻作品。その独特の質感、何を孕んだかはち切れんばかりの肢体に畏怖を覚える。


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金川晋吾/長い間】

人物ポートレートは「よく知らない人の写真を見せられてもなぁ」と苦手だった。しかしこの作品群は、失踪していた伯母を撮ったもので、作者も彼女をよく知らない。背景が広大な余白として鑑賞者を圧倒する。

 

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松田修/奴隷の椅子(作品撮影禁止のためキャプション画像)】

スナック太平洋のママに半生をインタビューする、という形式の映像作品。無知と貧困と暴力にまみれた暮らしをつまらないダジャレで茶化したあと「そうやって生きてきたんや。わかるかなぁ? わからんやろなぁ〜!」と怒気とも思える口調で念押ししてくる。六本木ヒルズの美術館へ来るような私たちには、きっとわからない。

 

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【やんツー/永続的な一過性】

ロボットが無分別にレプリカ作品を選び、展示場所に運ぶ。国宝のレプリカから、奥には一般的な解釈ではゴミのレプリカまで見える。人のバイアスが存在しない美術展示という試みのようだが、運搬ロボットに仕組まれたプログラムは鑑賞者から見えないので、解説すら欺瞞かもしれない。

 

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【市原えつこ/未来SUSHI】

未来の寿司屋というコンセプトの大型SFインスタレーションTwitterの悪ふざけにノリが近い。回転寿司は日本の縮図としてしばしばニュースを賑わせているが、流れてくる珍妙な寿司も全く訪れ得ない未来とは言い切れず、始終絶妙な顔をしてしまった。

 

いつも書いていますが、森美術館は私語も写真もOKで初心者も親しみやすい美術館です。しかし内容はマニアも唸る密度で、現代アートに苦手意識がある人ほど言って笑ってきてほしいなと思います。今回も涙ぐんだり笑ったりの展示に大満足でした。この混沌とした隣人たちが街に溢れることを、多様性の往来を愛せる日本社会になりますように。

 

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