仕事の関係で「単位積み上げ型学士」という制度のことを知りました。
大学中退の自分でも、残りの単位を集めてレポートを作成すれば
学士と同等以上の学力があることを証明してくれるというではありませんか。
人事に聞いてみると、学歴が上がれば昇給もあるとのこと。
やるしかない、そう思いつつも、あまりにも情報がなさすぎて
一年くらい足踏みしていました。
無事に学位を得た今、私がすべきことは情報を残すことだと思いました。
私が大学を中退した理由はいろいろありますが、
最も大きな要素は「バリアフリーの不足」です。
どうして講義室で寝ている人は学士になれるのに、
講義室に辿り着けなかった私はだめなのだろう?
スロープに自転車が止まっていて通れないのも、
障害者用駐車場が埋まって車から降りられないのも、
迂回に疲れ切って動けないのも、
私が悪いわけじゃないのに?
しかし誰に呪われたのやら心のどこかで
「障害を理由にするのは甘え、中退したからには学力が足りなかった」
という呪いに苦しんでいました。
でも今は「違う」と自信をもって言えます。
困難に遭って大学を辞めたあなた、次はあなたが呪いを解く番です。
まだ困難として数えてもらえない静かな苦痛を抱くあなたも含みます。
私はぜんそく持ちでしたが、当時は喫煙所があると発作が起きてバリアだなんて
言っても誰も相手にしてくれませんでした。今はほとんどの大学が禁煙です。
時代は変わります。きっとあなたの番も来る。
この申請もまた高度な計画性が要求されて、発達障害の方にはバリアでしょう。
少しでもヒントになればと当たり前の段取りまで書きました。
ひとつずつやっていきましょう。
以下、大学改革支援・学位授与機構のことはNIADと略します。
2024年現在の状況で書かれているので、時間が経つと変わるかもしれません。
- 1.「新しい学士への途」「学位授与申請書類」を手に入れて申請区分を知る
- 2.目指す「専攻の区分」を決める
- 2.5ノートパソコンを手に入れる
- 3.在学年数と単位を取りに行く
- 3.5.静かに勉強できる場所を探す
- 4.学修成果(レポート)を作成する
- 5.各種証明書を集め、提出
- 6.小論文試験、結果
1.「新しい学士への途」「学位授与申請書類」を手に入れて申請区分を知る
NIADのウェブサイトにアクセスして書類一式を手に入れましょう。
単位積み上げ型の学士の学位授与制度 | 学位の授与 | 独立行政法人 大学改革支援・学位授与機構
正直、こんなに長い書類を読み、自分がどれに当てはまるか考え、
手続きを完遂できるならばあなたは確実に学士と同等以上の学力があるでしょう。
既に審査は始まっているのかもしれません。
紙の資料もあり、様式の一部が紙で必須なのですが、
最新版が手元に届いたのは3月でした。
それから準備を始めたのでは4月の提出に到底間に合いません。
毎年そう大きくは変わらないはずです。昨年度版を読んで作戦を立てましょう。
まずは前の方のページにある概略図から基礎資格の区分を割り出しましょう。
既に持っている学歴によって申請区分がわかれます。
私と同じ大学中退なら、第3区分「学生として大学に2年以上在籍し~」が
当てはまるかと思います。
自分がどの区分かわかったら、いったん「新しい学士への途」は閉じて、
「学位授与申請書類」PDF版を開きましょう。
申請時に同封する申請書類チェックリストが手に入ります。
チェックリストにあるもの全てが揃うこと、それが目指すゴールです。
ここから逆算して行動を始めましょう。
時間のかかるものから洗い出します。
多くの第3区分の人は在学年数や単位数が足りない予感がするでしょう。
2.目指す「専攻の区分」を決める
「新しい学士への途」に専攻の区分の一覧があります。
在学年数や単位数を稼ぐにあたり、まずはどの区分の単位を稼ぐか決めてしまいましょう。
大学中退の場合、専攻していた学問の続きをするのが早いと思います。
しかし決めようにも、持っている単位もうろ覚えかと思いますので、
取得単位の証明書を取り寄せてしまいましょう。
チェックリストにもある必要書類でどうせ使います。
たいていの大学は郵送での取り寄せに対応しているはずです。母校のウェブサイトを訪ねましょう。
持っている単位を眺め、専攻の区分を決めたら、持っている単位の振り分けをしましょう。
専門、関連、実習等、どの種別の単位が足りていないかを調べます。
NIADのウェブサイトの「申請時の提出書類、申請後の各種手続きに関する書類の様式等」のページに「単位修得状況等申告書(事前確認用)」があります。
細かい作業ですが説明を読みながらがんばってください。
これも申請でどうせ使います。
丁寧にやっておくと、申請本番はコピーペーストするだけになり、楽になります。
2.5ノートパソコンを手に入れる
スマフォから「単位修得状況等申告書(事前確認用)」が使えませんでしたか?
この先の作業はパソコンがあった方がよいです。
公共施設や職場のパソコンでは融通も利きませんし、
マルウェア(コンピューターウイルス)がうつったり、
逆に怪しいサイトと認識されて学位申請システムに入れない可能性もあります。
文系や芸術系ではパソコンなしで学習している方も多いと聞きます。
仕事で使うこともないと、よくわからないかもしれません。
おすすめの買い方はこうです。
「WordとExcelが使える、13~15インチのWindowsのノートパソコンください」
- Wordは文書の作成に秀でたソフトで、学修成果(レポート)の作成に使います。
- Excelは表計算の得意なソフトで、前述の単位の確認や、ちょっとした計算に便利です。
- 13インチは紙で言うとA4サイズです。これより小さいと見づらい、大きいと運びづらいと思います。
- Windowsにしてください。Mac版のWordとExcelは若干挙動が違うため、人に教わりにくくなります。周りにMac使いのほうが多ければこの限りではありません。
- ノートパソコンのほかにタブレット+キーボードを勧められるかもしれません。タブレットの方が安いかもしれません。店員さんと相談してください。
- また、キーボード入力ができずフリック入力しかできない場合も店員さんに要相談、タブレットなら種類によってはできるかもしれません。
あと大事なことなのですが、ドン・キ〇ーテのような雑貨屋や中古、ネット販売ではなく、家電量販店の店舗で買ってください。
安いものは、セキュリティに穴があったり、古くてWordとExcelや学位申請システムがうまく動かない可能性があります。
ノートパソコンはWi-fiに接続するか、携帯電話の「テザリング」という機能でインターネットにつなぎます。
ギガをめちゃくちゃ消費するので、これを機におうちにWi-fiを導入しても良いと思います。
パソコンと一緒に買うと安くなったりするので、店員さんに相談してください。
3.在学年数と単位を取りに行く
足りない在学年数と単位を割り出せたら実行に移しましょう。
おすすめは放送大学の選科履修生になることです。
専攻の区分によっては無いかもしれませんが、
欲しい種類の単位が取れそうなら最速・最安値かと思います。
何よりのメリットは、入試がないので共通テスト対策からやり直す必要がありません。
足りないのが数単位ならお近くの大学で社会人向け講義に申し込むのもありですが、
お値段を見てひるむと思います。
放送大学だと同じ値段で一年在籍できるでしょう。
放送大学は放送講義で試験もリモートなので、かなり融通が利きます。
スマートフォンからも講義が聞けます。
単位の振り分けで専門科目、関連科目、その他のどれが足りないか分かったと思うので、解釈が微妙に分かれるような科目を選ばないようにだけ注意かと思います。
3.5.静かに勉強できる場所を探す
大問題。甘く見れません。
茨城県つくば市にお住まいでしたら、つくば駅前のco-enがおすすめです。
予約すると使えるコワーキングスペースのほか、勉強OKの喫茶店もあり、
市のコリドイオはふらっと立ち寄って使えます。県のフリーWi-Fiが使えます。
博物館や研究所の類は図書室を開放しているところもあり、
ご自身の専攻分野と違っても、年間パスポートを買ってお部屋だけ借りるのもありだと思います。
大きな図書館のある自治体だと、自習室を借りられたりもします。
4.学修成果(レポート)を作成する
場合によっては単位を取るより時間がかかるかもしれません。
レポートの書き方をすっかり忘れてしまった人や知らない人は、指南書を読むことから始めましょう。
おすすめは下記の書籍です。大変お世話になりました。
「新しい学士への途」にも記述があると思いますが、指導教官を探す必要はありません。
逆に言えばテーマ設定、調査、執筆、すべて自力でやらねばなりません。
自分は昔からレポートが得意だったので苦労なくできてしまい、
かえってここに書けることがなく心苦しいです。
レポート作成には参考文献が要ると思います。全部買っていたら財布がもちません。
お近くの、ご自身の専攻と近い学部を持つ大学か研究所の
図書館の利用を申請しておくとよいかと思います。
利用料金や条件は場所に拠りますので、検索してみてください。
おおむね社会人にも広く開かれているはずです。
お近くの大学で単位を取ることに決めて、学生に準ずる身分が貰えた場合、
eduroamの使用を申請しておくとよいです。
簡単に言うと、全国の大学・研究所共通で使える関係者向けフリーWi-Fiです。
よその大学図書館等でレポートを書く際とても便利になります。
申請方法は学務に聞いてください。
残念ながら放送大学はeduroamの共同体に加入しておらず、申請できません。
また、NIADのウェブサイトの「申請時の提出書類、申請後の各種手続きに関する書類の様式等」のページにレポート本体と要旨の様式があるので、ダウンロードして使うと間違いがないです。
ここでWordが必要になります。
5.各種証明書を集め、提出
単位の取得が終わっていなくても、レポートができていなくても、
4月申請なら年明けには動いた方がよいです。
いくつかの書類はコピー不可で、
申請にはNIADのウェブサイトから紙の冊子を取り寄せる必要があります。
たまに見に行って、紙の資料の発行が開始されたら申し込んでください。
でも先述したとおり3月まで来なかったので、昨年度版を見ながら支度を進めてください。
4月申請の場合、年度末に入ってしまうと学校が忙しくなり
退学証明書などを請求してもなかなか送られてこない可能性が高いです。
年が明けたらもう取得に動いてしまってよいと思います。
住民票は、マイナンバーカードがあればコンビニで取れますが、
ない場合は役所に行く必要があり、やはり年度末は混むので、早めに動きましょう。
三カ月以内のものが必要なので早すぎてもだめです。
ぎりぎりで冷や汗をかいたのは、最後に在籍した放送大学の
単位取得証明書と退学証明書でした。
3月末に退学したのに、書類送付の〆切は4月5日。
お取り寄せでは間に合わないので最寄りの放送大事務室まで行きました。
急に休めない職種のかたはご注意を。
提出物の一部はインターネット経由での提出となります。
特に単位の関係がめちゃくちゃ面倒くさい。
数年後にはよくなっていることを祈るばかりですが、
パソコンの操作に慣れていない方は数日がかりになるかもしれません。
データの提出期間は短く、郵送より先に済んでいる必要もあるので、
提出期間スタートと同時に手を付けるのがおすすめです。
6.小論文試験、結果
レポートと書類を提出したら、小論文試験の受験表を待ちます。
5月下旬に受験票が届き、試験日は6月上旬でした。
小論文試験を受けたことがない人は、参考書を買って練習しておく方がよいです。
レポートの内容について込み入った問題が出され、筋道だった文章をその場で考え、90分ひたすら手書きしていく試験です。
正解がひとつじゃない上に独特の様式美があるので、やったことがないと苦戦すると思います。時間配分も独特のコツがあります。
こんな長文ブログを平平然と書いている私でも、手の疲れと焦りで字がぐちゃぐちゃでした。
小論文試験の問題は一人ひとり違うものが出題されます。
ネットのうわさでは「本人確認程度の難易度」「レポートの要約問題が出る」
などと言われていましたが、両方違いました。
看護の人はうわさ通りだったそうなので、分野によって違うのかも?
ちなみに私が書いたレポートは、保険衛生学のうち検査技術科学のものです。
医学検査の非侵襲化(危害をなるべく減らすこと)の重要性を述べ、
よく行われる検査について侵襲の観点から特徴をまとめ、
それぞれの検査について非侵襲化のアイディアを述べました。
そして総括として調査考察の過程で見えてきた新たな観点で非侵襲化の重要性をまとめ、また、非侵襲化のアイディアには共通する部分があるため、ガイドラインにまとめることを今後の課題としました。
そして出た小論文問題は下記二問です。
・検査の長い歴史の中でレポート内に述べられたような非侵襲化がなされていないのはなぜだと思うか
・もしレポート内で述べたアイディアで非侵襲化がなされた場合、従来の検査と比して優れているか検討するための研究を考えよ
要約問題どころか、私のレポートで書かれていない弱点そのものでした。
前提不足と定量性不足を指摘されたようでものすごい脂汗をかきました。
作った回答の要旨はこうです
・古代ギリシャ時代から医師ではなく理髪外科医が検査の一部を担っていたように、そして今も医師と検査技師は分業され、また技師は圧倒的に大卒未満の学歴が多い。そのため検査の現場に立って患者の苦痛を見ている人に研究や論文発表の技術がない。また一度現場の技師になると研究をしている暇がない。医師と技師、現場と研究の分断がずっと続いている。
・感度・特異度、検査離脱率などの測定を念頭に二重盲検法を行う。特に侵襲性の評価においては質問紙による尺度評価や自由記述も大切。具体的には…。
何百字くらい書いたでしょう? マス目のない解答用紙だったのでわかりませんが、A4の紙を三枚使いました。
小論文試験が終わったらあとは結果を待つだけです。
採点速報や合格発表はないので待つしかありません。
8月下旬に大きな分厚い封筒が、学位記がいきなり来てびっくりしました。
ふっかふかの専用ケースに入った立派な賞状がもらえます。
職場には同封の学位取得証明書を出せれば十分なのですが、
職場によっては「なんだこのあやしい資格」となるのを見越してか
「大卒相当だよ」と説明するパンフレットも同封されていました。
ありがたく一緒に提出しました。
ちなみに会場で知り合ったかたによると、落ちたときは通常サイズの郵便が来たそうです。
なんだか好き勝手に書き散らしましたが
少しでも誰かのヒントになれば幸いです。
がんばってくださいね。きっとできます。