千住のコンテンツ感想ノート

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【ネタバレ注意】鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎【感想】

 みなさんヤバい村の話は好きですか? 私は大好きです。このジャンルは最近「因習村」としてだいぶ認知されてきましたね。正月休みということで、最新の良質因習村として名を馳せた本作を観に行ってきました。結論からいうと大満足です!

 

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 あらすじとしては、戦争帰りのサラリーマン水木が、謎の製薬会社の社長一族が住む村、哭倉村に潜入する話です。メタ的な話をすると「ゲゲゲの鬼太郎」の主人公である鬼太郎の誕生とその父のエピソードという触れ込みのようですが、ゲゲゲの鬼太郎をよく知らなくても楽しむことができるあらすじになっています。

 

 オープニングから既にタバコの煙、食べ物、物音といった細部まで昭和末期を再現しようという意気込みが伺えました。また、村の門をくぐる雑誌記者や水木の足元が必ずアップになるのですが、これも「戻れない場所への線を跨いだ」という因習村のお約束のようなもので、そのジャンルに詳しい方が丁寧に作り込んだことをうかがわせます。安心して世界観に浸ることができました。

 また、それでいて、アニメ映画らしい型破りのアクションシーンが見事でした。もう一人の主人公であるゲゲ郎(仮名)は幽霊族という妖怪の類であるとのことで、最初は温厚そうな昼行燈に見えますが、いざ戦うと人ならざる怪力と俊敏さを見せてくれます。ギャップがたまりません。ゲゲ郎の戦いは一見残酷に見えますが、なるべく苦しめず一撃で仕留めるせいであり、かえってその温厚な性格を裏打ちするもの、という仕掛けもにくいです。

 因習村は時にツッコミ不在のままその常識はずれを加速させていき、それが苦痛であり醍醐味であります。しかし本作は令和に生きる視聴者が気持ち悪いなと思うようなシーンでは主人公の水木が思いっきり気持ち悪そうな顔をしたり嘔吐してくれます。どうすれば因習村初心者にも観やすくなるか、高度な工夫と配慮を感じます。またヤバい村は滅ぼされ最終的には怨霊といったファンタジーの文脈に収束するので、後味もかなり軽やかですね。

 

 「大変優秀な初心者向け因習村だが、因習村なので人には勧められない」という非常に絶妙な本作がなぜここまでの大ヒットをきめているのか不思議です。ミッドサマーの流行によりヤバい村を受け入れられる観客が激増したからでしょうか。ヤバい村ファンとしては本作のような素晴らしいハイブリットが次々と生まれてくることを願ってやみません。

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