千住のコンテンツ感想ノート

美術展・ゲーム・書籍等の感想

神田茉莉乃作品集 間にある言葉

神田茉莉乃さんの作品に出会ったのは、伊勢丹新宿店アートギャラリーの展示「誰も開けなかったキャビネット」です。狙って行ったわけではなく、バレンタイン催事場の順番待ち中に偶然たどり着きました。

https://www.mistore.jp/store/shinjuku/shops/art/artgallery/shopnews_list/shopnews0460.html

 

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この「飛ぶ視線、泳ぐ体」を見たとき、少しの間動けなくなりました。なんてことない部屋の片隅が目を向けるべき場所に変容して、特別の蛹みたいな作品です。もっとこの人の作品を見たい、できれば会って話してみたいと思いました。この人の作品には物語がある。しかしこの人が在廊していない今、この作品の重要な部分が欠落してしまっているような、そんな思いつきに囚われました。

 

すぐ近くに作品集の見本が置かれていて、手に取った瞬間買うと決めました。私はほとんど画集や作品集を買いません。インスタレーションを愛好する私にとって、写真集はその作品の一番大事な要素、その空間に私と在るからこそ映える部分が落ちてしまっているように思えるからです。しかし今回は逆に、なし得なかった対話は、作品の重要な部分はこれで補えるのではないかと思えました。

 

作品集はまる二ヶ月ほど経ってから手元に届きました。

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大ぶりの正方形、厚手のトレーシングペーパーを間に何枚も使っており、明らかに手製本です。時間がかかったのは作っていたからなのでしょうか。待っている時間すら対話だったのかもしれません。

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どこかたどたどしさのある手探りの言葉で、ご自身の活動のヒストリーが語られていました。このかたの作品は空間と響き合おうとしているのではなく、自他の境界と響き合おうとしているのかもなと思いました。展示会場で作品が自ら立たないのは、インスタレーションとしては未熟なのかもしれません。でも、作者と話してみたい、そう思わせる力は大変稀有に思えます。

 

経歴を見ると大学院を卒業なさったばかりのようです。就職なさったのでしょうか? 社会に出て、学校とは比べ物にならない数の人と対話した作者さんが、どんな作品を作るのかとても楽しみです。またどこかでお会いできますように。