千住のコンテンツ感想ノート

美術展・ゲーム・書籍等の感想

【社会のルールをハックせよ】Chim↑Pom ハッピースプリング【現代アート展】

 国会議事堂前にカラスを集めて擬似デモ、立ち入り制限下の福島で入場不可能な美術展、広島の空に「ピカッ」の文字。どれかはニュースで見たことがある、という人も多いのではないでしょうか。森美術館の新しい特別展をチェックして「ぜんぶ同じ団体だったのか」と呆れや困惑に似た衝撃を受けました。今回の主役は炎上と隣り合わせの団体ですが、森美術館は今までも現代アートへの優れた知見で素晴らしい展示を執り行い続けています。森美がまとめた展示ならきっと勉強になる。そう信じて用事のついでに行ってきました。

 結論から言うととても楽しかったです。

 

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↑『くらいんぐみゅーじあむ』

静粛にという美術館の不文律に問題提起する作品。森美術館はもともと私語OK撮影OKな方が多いですが、内部に託児所まであるのは初めてみました。展示のキャプションの「託児施設、ほか」も初めて見たよ。

 

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↑『性欲電気変換装置「エロキテル」』

アダルト広告にも見える電話番号が広告として掲載してあり、電話がかかってくると光る。性欲の可視化。天井が低く、上の金網から光がさしているのが見てとれる。

 

 入口の天井がかなり削られており、過去の活動を紹介するコーナーは異様な雰囲気でした。進んでいくとそれが本当に地下道であったことに気づきます。工事現場のような階段を登ると、公道でも展示室でもないアスファルトの空間が現れました。


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↑『道』

 六本木の真ん中なのに、歓楽街のような異様な雰囲気。ゴミだらけなのにタバコの匂いがしないのも異様です。どこまでがパフォーマンス/パフォーマーなのか来場者にはわかりません。露店のようなものがあったり、道で人が寝ていたり。

 


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↑『道』

まあでもこの人は確実にパフォーマーのような……。私を巻いてとのことで、色とりどりの紙テープとペンが置いてありました。頭に白いリボンをつけてあげました。

 

 他にも(多分)パフォーマーとして、スカートの中身を携帯のライトで照らしながら側溝の上に立っている人がいました。先の地下道から下着を見ることができ、YESと書いてあるのがわかりました。なお、よーーーーく見ると男性でした。

 

 上記二つのような人間性を剥奪し展示するインスタレーションはありきたりではありますが、美術館でも公道でもない空間でというのがミソでしょうか。かつて自分を展示し、周りに凶器を置いていたような現代アーティストも居て、彼女は服を剥ぎ取られ傷をつけられました(リズム0,1974年)。巻いてほしい人やパンツを見せる人の扱いとしてどこまで「いけた」かは、治安のいい六本木では神のみぞ知ります。

 

 客層か日本という国の性質か、よくあるインスタレーションの風景でした。しかし香港での『道』では政治デモがゲリラ発生し、公道でも美術館内でもないので黙認されたそうです。予想外のことがおきにくい森美術館では、メイン展示『道』の真価は残念ながら発揮されていないように感じました。

 

 社会のルールをハックするChim↑Pomの鋭さが発揮されるのは、森美の展示室のような安全な土地ではなく、不安定な場所なのかもしれません。原発事故に侵された福島での活動は特に目を見張るものが多かったように思います。冒頭で紹介した帰宅困難地域内での美術展『Don't follow the wind』はまだ誰も入場できないままです。


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↑『サイレント・ベルズ』

このインターフォン福島県にある立入禁止区域内の民家に繋がっており、実際に現地でベルも鳴っているそうです。まだ誰も帰れないその家から返事はありません。

 

 帰り道の売店には搬入の際に出た廃材が数千円の値段で売られており、アートの価値に喧嘩をうりがちな現代アーティストあるあるで満面の笑みになってしまいました。


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↑ふにゃるまで噛み潰されたストロー。一応煮沸消毒済みらしいが。値札は¥?となっていた。せっかくなのでレジに持って行った。


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↑無料なんかーい


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↑ふにゃふにゃのストローは回収され、Chim↑Pomのキャラクターのシールが貼られた新しいストローを渡されました。せっかくなのでジャケットの胸に差して持ち帰りました。今はダリアと一緒に花瓶にささってます。

 

 現代社会のルールに疑問符をつけるのは現代アートの最もエレメンタルな技術のひとつですが、ここまで徹底できる団体もなかなか無いように思います。今後も炎上しながら社会をハックしていくのでしょうが、さじ加減を間違って消されてしまわないかとてつもなーく心配。いい感じに舵取りしてくれるメンターがつくといいな……と思いながら会場を後にしました。

 

www.mori.art.museum