千住のコンテンツ感想ノート

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【ソフィ ・カル】限局性激痛【原美術館】

ソフィ ・カル。渋谷のスクランブル交差点をジャックしたり、3つの個展を同時開催したりと猛プッシュされてる現代美術家。そんな彼女の個展のひとつ「限局性激痛」を見てきました。

 

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原美術館はカフェ含め完全撮影禁止。綺麗な建物なのにちょっともったいない

 

かなーり好き嫌いの別れる展示かと思います。醜い部分を曝け出しつつも、細かい情報がない。その体験は本当に誰かの恋の失敗談を聞いている感覚そのものでした。生々しい痛み、ちょっとした間違い、作者が「そんなつもりでいる」ものが鑑賞者の価値観とぶつかり合って軋みます。

 

なんとなくですが江國香織作品が好きな人はツボるのではないかと思いました。

 

原美術館はその複雑な間取りゆえ、道を間違うと企画展の合間に常設展をはさんで没入感を損なってしまいます。地図を見て進むのがおすすめです。

 

 

 

-------ここから先は行きたくても行けない人向けのネタバレ感想です--------

 

 

前半部は作者が旅に出、その帰路で失恋するまでが写真と文で語られています。 奨学金を得ての旅は彼女にとって楽しいものではなかったもよう。どこか陰鬱な写真たちには真っ赤な「○○ DAYS TO UNHAPPINESS 」というスタンプが押してあります。どんどん減っていく数字。増していく不穏。そして最後に作者は、インドまで迎えにくるはずの恋人が、事故で来られなくなったというメモを受け取ります。

 

しかしその事故は足の爪が食い込んで病院に行ったというだけのものでした。作者が恋人に電話をかけると、短な言葉のやりとりだけで交際は破局します。

 

後半部、作者は痛みを忘れるため、とある活動を始めます。自分の苦しみを語り、その代わり相手にもっとも苦しかった出来事を語ってもらうというものです。

その営みは、写真および布に刺繍された文章で展示されていました。破局が成立したホテルの写真とソフィの語り。誰かの不幸語りとそのイメージ写真。それらのセットが交互に並んでいました。最初は長く恨みがましく、黒字の布に白い糸で克明に縫い取られていたソフィの痛み。それが誰かの不幸をまたぐたびに短く淡々とした文章へ、そして布と文字は明度差を失い読みにくくなっていきました。

最後に灰色の布に同色の糸で「くどくどと語るに値しない物語」と綴られて、展示は終わります。

 

 

苦痛が薄れていく様を布と文字の色を近づけていくことで表現する、その手法で強い共感に巻き込まれたのは私だけではないはず。あとどうでもいいと言えばどうでもいいのですが、誠実さを欠いたばかりに極東の美術館まるごと使う企画展になっちゃった元交際相手はいまどんな気分なんだろう……。

 

自分が失恋のただ中にあることもあり、とてもインパクトのある展示でした。他の個展も行ってみようかな。