千住のコンテンツ感想ノート

美術展・ゲーム・書籍等の感想

【平砂アートムーヴメント】ここにおいて みせる/みる 感想【筑波大廃宿舎に集う自意識】

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【平砂アートムーヴメント公式サイト】

https://hirasunaart2019.myportfolio.com/

 

筑波大学の廃宿舎で行われた学生と卒業生の美術展です。

会期終了前日に閲覧者のツイートを見かけ、慌てて行ってきました。最近このパターン多いですね! 市内の美術展、宣伝がんばって!!

 

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↑会場、平砂学生宿舎9号棟。すでに外観がこわい

 

 廃宿舎の部屋をひとりひとつ割り当てられ、そこ丸ごと使って作品にするという美術展です。筑波大学の宿舎、特に会場の棟は「刑務所のほうがマシ」と言われていたほど狭く薄暗い建物です。しかしこの矮小な部屋こそが、筑波大生の帰る場所で、自意識の基底で、生活のすべてでした。

 

 作品のほとんどは部屋の扉が閉められていました。鑑賞者はまるで作者の部屋に、その心に入るかのような気持ちで重いドアを開けなければなりません。扉の前に作品名こそ掲示してありますが、何が飛び出してくるかは扉を開けるまでまったくわかりません。全ての出展者がその異質性を深く深く理解し、利用していたように思います。作品は3階までありましたが、正直なところ1階を見終わった時点で刺激過多でした。どの作品も熱量がすごかったです。一部ではありますが以下に感想を書き留めておきたいと思います。

 

 

【122 私はここにいる/皆川達也】

時代遅れとなりつつある電子機器を使った脱出ゲーム。偶然居合わせた見知らぬ三人で入室しました。脱出用のPINコードを入手するにはニンテンドーDSフロッピーディスクバーコードリーダを使わねばなりませんでした。もう忘れていてまごつきながら操作するか、古すぎて使ったことがない機器ばかりです。しかし今日「ここ」で脱出ゲームのキーとして使ったことで、私は彼らを忘れないでしょう。

 

【129 殺○事件/中村日香】

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生活感のある部屋に、壊れた電子機器と血しぶきが散乱。しかしよく見ると血を流しているのは、それを壊した誰かではなく……。ありそうな光景とありえない光景の合体にめまいのする作品でした。

 

【136 pattern/高橋呼春】

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スタンダードな宿舎の部屋一面が美しいパターンに覆われていました。整然とした模様がかえって部屋の矮小と殺風景を際立てていました。

 

【137 雑草/藤田悠希】

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扉を開けたとたん鼻につく、草とカビの匂い。大学での暮らしってどこか雑草のようだったなと、なぜか妙に懐かしくなりました。

 

【242 おも影/青山佳乃子】

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ワイヤーで象られた人は、今にも消えそうな記憶そっくりです。ぎゅうと胸がしめつけられました。まるで宿舎退去前に、そこで寝ていた愛しい人のことを思い出しているような。なかったはずの出来事を追体験していました。

 

【244 reality←→fantasy/藤井陽】

宿舎の二階に上がってすぐ、柔らかな音楽が聞こえました。人だかりの向こうでは、宿舎のドアを開け放ち、ラブソングに合わせて赤い服の女学生が踊っていました。まるであの小さな部屋で行われる恋煩いを覗き見てしまったようでした。

 

【329 Sightseeing/岡本太玖人】

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互いに背を向けたスピーカーから爆音が鳴っていました。それらは「L」「N」「R」として擬人化され、LとRの仲が悪くNは板挟みである旨が書かれています。まるで本当に宿舎の部屋で行われる喧嘩を観光にきてしまったような気まずさがありました。

 

【341 ミる、ミられる/浜野那緒】

この部屋の洗面台には長い髪の毛と二重形成シールが残っていたそうです。部屋の天井から化粧品が吊るされ、好きに化粧してよい旨が書かれていました。壁一面に様々な「作品名」が書かれていましたが、額縁の中はすべて鏡でした。一日中その「作品名」にあわせて化粧をして過ごす、そんな妄想が頭をよぎりました。

 

【344 アニマの消失/小貫智弥】

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道具の幽霊がテーマの展示。もとの形を失った道具たちは、ガサゴソと音を立てたり、かつての名前を歪んだ波形で鳴らすのみ。五つの箱が置かれていましたが、どれひとつ、もとはなんだったのかわかりませんでした。幽霊ってそんなもんかもしれません。きっとこの部屋にあるくらいですから、学生が宿舎で使っていた物なのかもしれません。わからないからこそ残るもののある作品でした。

 

【347 My Foolish Heart/玉木希未】

抽象的な自意識の作品は数多くありましたが、ドアを開けた瞬間の衝撃が一番大きかったのがこの部屋でした。太い毛糸で造られた渦が壁を這っている。それだけなのに大声で叫ぶような主張を感じたのはなぜでしょうか。

 

 

今まさに表現を学んでいる学生たちが全力でぶつかってくるような、とても衝撃的な美術展でした。平砂アートムーヴメントの今後の企画もとても楽しみです。