千住のコンテンツ感想ノート

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【不可思議医学エッセイ】幻覚の脳科学 見てしまう人びと【感想】

神経科オリヴァー・サックス氏は患者へのインタビューや文通から脳と精神の世界に迫ろうとする著作をいくつも記しています。その中でも「幻覚」に焦点をあてたこちらの書籍を読了しました。

 

 

2014年に刊行された「見てしまう人びと:幻覚の脳科学」を改題したものだそうです。サックス氏があくまで医師であること、人間を大切にしながら科学的に幻覚の本質へ迫ろうとする彼の姿勢などを考えると新版タイトルの方が確かに適切に思えます。

 

ここまでの文章の熱量からお察しかもしれませんが、私はオリヴァー・サックス氏の大ファンです。

 

本書の醍醐味は何と言っても「幻覚は病気じゃなくてもよくあること」という事実が浮き彫りになってゆくところです。偏頭痛前兆に伴う幻覚、単調な環境下での幻覚現象『囚人の映画』、死別悲嘆や畏怖による幻覚、などなどの事例がインタビューの生の声と共に解説されています。

 

これら不可解な現象に悩まされていた人にとっては救いになるでしょうし、そうじゃない人にとっても周りの誰かを導く一助になることと思います。私も疲れると寝入りばなに知ってる人の声が聞こえることがあり、サックス氏の他の著作により「入眠時幻聴」という現象であることを知りとても安心したものです。何よりどの体験談も解説も興味深くワクワクするものばかりです。

 

サックス氏の十八番である患者の体験談の数々のほか、今回は氏が脱法ドラックでラリった経験も記されておりとても読み応えがあります。脳神経の専門医ですら、幻覚を幻覚と気づけないことも耐えられないこともある。そんな事実にどこか胸がざわつきました。

 

サックス氏の著作は面白いだけでなく、幻覚・幻想・宗教を深く理解でき、ファンタジーやホラーを創作する参考になります。さまざまなかたの知的好奇心を満足させる一冊に間違いないので、ぜひお手にとってみてください。

 

 (2015年にサックス氏は亡くなってしまいました。もう新刊が出ないのが残念でなりません……)