短歌を始めたころ練習のために通っていた歌会サイトうたの日。そこで薔薇(主席)を連発し、一際目立っていたのがtoron*さんでした。てっきりプロの歌人が営業がてら遊びにきているのかと思っており、これから書籍が出ると聞いた時は驚いたものです。
toron*さんの作風の特徴と言えば、目の前のモノとそこにない光を結びつける手技だと思います。凡百の歌人であれば辿り着けないほどの視線の遠大があります。
やわらかく耳に受話器を押し当ててあなたのスマホにひかりを移す(P34)
ほんとうは見えない星座の線としてUber Eatsのバイクは駆ける(P77)
電話する自分から相手の世界で起きたことへ。宅配のバイクから街に残る軌跡へ。馳せる想いが遠く広く、そして淡い光を感じさせます。時間や空間の遠くを想って光を灯すやさしさ。それがtoron*短歌の魅力なのではないかと思います。
難解な歌はありません。毒の強い歌もありません。比喩の魅力、脱臼の魅力、単語の魅力いずれも伝わり、はじめての歌集に勧めたくなるような本です。時代を代表する歌人となるポテンシャルを持つと、私は心から太鼓判を押しています。
最後に自慢ですがサイン本を買いました。ラメペンとグラデーションのゴム印で素敵に仕上がっており、ひかりを大切にするtoron*さんの良さが凝縮されているようでした。きっと宝物になります。機会がありましたら、ぜひお求めください。