作風が好きでTwitterをフォローしていたかたが北斗賞を取って出版なさいました。おめでとうございます。早速買って読んでみました。
多用される冬の季語や貧しさの気配ある卑近な語彙、そのなかでラジオや映写機のようなどこかざらつきのある、ぎこちない、間接的に伝えるための道具が目立ちます。映写されたような違和感は通奏低音としてさまざまな句のうえで見られます。たとえば
豚まんを割く音のして多分幸
凡句であればその温もりを疑うべくもない冬の日の豚まんを「多分」で濁しています。現代人にとってコンビニで買う豚まんがどこか貧困と切り離せないことをほんのりと香らせています。そもそも豚まんは割いても聞こえるほど大きな音がしないはずで、不穏な余韻を残します。
解説の石寒太さんは関連のわからない季語が多いと書いていましたが、私の読む限りは納得のいくものばかりでした。これはどんどん貧しくなる日本に対するジェネレーションギャップなのかなと思います。あらゆる闇、ホームレスや無職に対する、紙一枚ほどの目前にあるという感覚は作者以下の世代特有の持ちものではないでしょうか。俳句界では若手な人たちにこそお薦めしたい句集でした。
さまざまな質感の紙でサーチライトの後ろの夜を表現する装丁も作風ぴったりでした。装丁でピンときた人はきっと作品も好きになると思います。