千住のコンテンツ感想ノート

美術展・ゲーム・書籍等の感想

ブンゲイファイトクラブ2(BFC2)感想まとめページ

参戦しながらガシガシ感想をツイートしていましたが、どんどん流れていってしまいますね。せっかくなのでここに転記してまとめます。作者に届け愛のメッセージ。

増えたら足していきます。

 

----------一回戦-----------

Dグループ樋口さまの「字虫」、ボサッと読んでいたら真に受けてしまいそうでした。読み切りホラー漫画のテイストがそのまま文学になったような読み口です。

 

蜂本みささまの「タイピング、タイピング」。息がつまるような、密度のある独白でした。最後まで読んでから最初に戻ると「世界から出し抜けに話しかけられた」感じが共有できる仕掛けもよかったです

 

----------ジャッジエントリ稿-----------

ジャッジ山田郁斗さまの『一人称の限界 島本理生ナラタージュ」論』。
「ナタラージュ」未読なのに、わかるわかると頷きながら読んでしまいました。論から対象の文体や雰囲気が透けるってすごいですね。

一人称の限界、それは元々小説を書いていた自分も感じていて、強い衝撃を伝わるように描写しようとすればするほどまるで冷静になってしまう。そこを三十一文字に単語を選んで丸め直す、というのが短歌に惹かれた理由でもあり。

最近だと「流浪の月」が誘拐犯との出会いと絆を回想形式で語っていましたね! そのときはただ必死だったんだ、でも心に強く刻まれたんだ、とアピールするためにはやはり回想形式が必須で、ほんとにカウンセリングの側面を持つような 散らかってきたので終わります!

 

遠野よあけさんの批評読みました。「百年と一日」は未読ですが、まるで千夜一夜物語のような1冊なんですね。そんな本の題にある「と」が等号だとはまこと慧眼かと!BFCでまざまざ感じていますが、様々な時間が同じような枚数に圧縮されるのは文芸の素敵な魔法ですよね。そして作る時最も悩む所。

そして目の前の作品が時間のしずくであることを感じさせるような、奥行きや濃度のある言葉選びができたらいいな、日々の中で探してみつけていきたいな、と思いました。しかし面白そうな本ですね! そう思わせる手腕もすごいです。自分も読んでもっと深い議論に参加したくなる批評は貴重です。

 

大江信さん『陳腐な言葉で愛を君に』読みました。文学作品は恋文みたいなところがあって、分かる人への「暗号」だから届く人に届けば十分なんですけど、批評は文中で「売れなければ」とあるように広く届く必要がありますよね。誰かへの恋文を文字を愛する全員への恋文に変換する批評への覚悟すごいです。

すげぇどうでもいいんですけど私と恋人の間にしかおそらく伝わらない暗号に「オア…」があります。特に前衛的な文学だとこういう傾向がありますし、短歌ってこういうもんだと思われがちですよね。ここに「これは家猫のただ返事がほしいときの無駄鳴きを模したもの」と暗号を解くのが批評なんですね。

分かる人刺さる一部への恋文である文学と、みんなで共有できる暗号読解である批評、その間が可能ってどういうことなんでしょう? 謎めいた締めに興味が尽きません。ジャッジ文も楽しみです。

 

----------一回戦結果発表後-----------

得点総合2位、敗退者では首位の蕪木Q平さん「voice(s)」読みました。余裕をなくした脳内に渦巻く声声声、型破りな記号の使い方が正確に再現しています。ふっと我に帰る瞬間まで驚きの再現度です。視聴覚要素の鋭さはドラマの脚本にも見えました。その良さを使い切ったラストも素晴らしいです。

 

----------二回戦-----------

蜂本みささん「オテサー糠」
要素の多さが賛否を分けた前作に対し、こちらはすごくスッキリですね! 作品自身が糠漬けのようです。シンプルながら滋味奥深く、しかし他の料理次第ではかすむかもしれないという危うさ。ハラハラしますね、もちろん良い意味で!

 

笛宮ヱリ子さん「ホワイトライフ」
ひどい気候変動があって、変な生き物が殖えて、保護区と一般区の差別があり、それでもホットミルクのように生きる誰かがすごく羨ましいですね。すべてが白く霞んでいて柔らかな読み心地です。向こうの不穏も作られているからこそ、霞みが心地よい。

 

由々平秕さん「愚者たち」
愚者がどちらか決められない、に対して題が後から毒入れてくるの最高ですね。居そうな人だけど普通そこまではいかんやろでも居そう、という小説として一番面白い力加減でした。

 

和泉眞弓さん「プラスチック神殿」
日中のゴミ屋敷や夜の魔法陣に変わるコントラスト、カビまで味方につけた情景描写が素晴らしかったです。この手の題材は異人種として邂逅・和解するパターンが多いように思いますが、同類として自己肯定に落ち着く作風に万人にはできない味を感じました。

 

馳平啓樹さん「エッフェル塔の傘」
新海誠作品に近い趣があります。男が女でバランス崩しているのは最高ですね(ただの性癖)水の匂いを損わぬ文体が素晴らしいです。何があったか細かく言い過ぎないのも過ぎ去った時間を感じさせて、高い技術を感じます。

 

----------番外:BFC2幻の2回戦作-----------

星野いのりさん『晶子』感想

与謝野晶子って火属性ですよね(断言) 季重なりによって時期外れの金魚が浮かび上がり、金魚すくいですくわれたばかりの稚魚ではなく、ヒレも立派で体も真っ赤な大人金魚なんだろうなと連想が弾み、火を纏いそうな様子を強 最初の一句で文字数g

火・燃える・あがる・輝く・命・生死(生が強調されるような死)といったテーマを畳み掛けており、一貫性と引き出しの多さに地力を感じます。明星や弟の遺灰などに与謝野感(?)を忘れず配置しているのもよいです。韻踏みにも気を配っているのが伺えて褒めるポイントが散らかるうちにまた文字数

突然水・下・薄暗い・生死(死が強調されるようなもの)の印象を持つ花筏の句が現れ、私への返歌という背景を知っていたので「頼むから私のために鎮火しないでくれー!」と祈りながら読んだところ、そのまま真上を向いて花篝になりました。まるで破調のごとき緩急となって◎でした。花篝ってあっ文字数

花篝って使ったことない季語でしたが、夜・炎・桜・散る・強さ・命・はかなさ・熱さ・揺らぎ・艶めく風情などこの作品がテーマとして扱いたいモノが濃縮されていて美味しいですね。末尾にふさわしいチョイスすごいなと思いました。

 

----------二回戦結果発表後-----------

ジャッジ評まだ読んでいる途中ですが遠野さんの「そして待子はきっと、その先の展開も予想していたのだろう。傘はとても忘れやすい持ち物だ」 しびれますねぇ……! 思わず読むの止めて味わってます。

 

----------決勝戦-----------

白川小六さん「ティンカー・ベルとZPT協会」

ノンジャンルバトルにおいて最初の一文でジャンルを決定できる力は本当に強いですね。すぐ情緒性に没入できました。ウマァイ……。「シアワセ」を証明するため尊厳死の趣を選ぶラストは現代社会に叩きつけるかのようです。

 

『ある雨の朝アクラクは』蜂本みささん

自分のことを一人称で呼べるようになるのって、日本だと何歳くらいだったでしょうか。はじめてのおつかいの描写に終始せず、内面的成長の示唆としてぼくを持ってきたのがないすです。

余談ですが、異国情緒の原風景が『はてしない物語』なもんだから、謎かけ屋に道を教えられたとき「それは謎かけだ! 騙されるな坊や!」と思ってしまいました。ふつうに親切だった。

 

 

 

本当に楽しいお祭りでした。参加できて光栄でした。

次は、倒します。