千住のコンテンツ感想ノート

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【春の日のひかりとしての眼差しが】パーティは明日にして【口語句集】

 俳句を始めて半年が過ぎました。ツイッターで感想を見かけ、引用句に「絶対好きな作風だ」と確信したので購入いたしました。

 短歌や俳句を本にする意味ってなんだろう、と考えることがあります。この句集を読んで思ったのは、デザインの力によって作者と作品群の魅力を高めるため、がひとつの答なのではないかということです。

 

ただいま金魚カルピスに冷え家の鍵 (P116)

 

引用した句は字余りが挨拶らしく印象深い初句に始まり、帰宅してカルピスを飲むという夏の仕草をあえてコップのそばで一緒に冷えた鍵にフォーカスすることで俳句としています。(注:金魚は夏の季語のため、ただいまの時点で季節が確定します。これ「カルピスに冷え家の鍵ただいま金魚」だと夏の帰宅の爽やかさを提示するタイミングが遅すぎるんですよね)

金魚にただいまを言うような、鍵を出しっぱなしでカルピスを飲むような、どこか呑気な作中主体(小説でいうところの主人公)の人物像が鮮やかに浮かび上がってきます。

 

本書を通して存在する春の日のひかりのような呑気さは、ニュアンスカラーでまとめられた表紙が一目で紹介し、読者を引きつけます。明朝系ながら丸みの強いフォントも、呑気になりすぎず機微を切る鋭さもあるという作風の長所を強調していました。行間も含めて作品として成立しており、コーヒータイムに数ページ読んでほっとする、そんな読み方で3ヶ月も楽しめました。

 

その柔らかさは読者としてはほっとタイムでしたが、作句ビギナーとしては「そこに目をつけるのは自分には無理だな…」と冷や汗をかきっぱなしでした。集中力がふと切れてしまった瞬間の逸れた瞳にしか捉えることのできないような、何も予定のない午後にしか見つけることのできない景色のような、やわらかさをぜひ体験いただければと思います。