千住のコンテンツ感想ノート

美術展・ゲーム・書籍等の感想

現代短歌の歌集をいくつか読んだ

最近短歌にハマっています。いろんな現代歌集を読んで、好きな歌人を探していました。三人ほど読んでみたのでとりあえず感想をまとめます。

 

【サラダ記念日 俵万智

「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの

今日までに私がついた嘘なんてどうでもいいよというような海

サラダ記念日

サラダ記念日

 

 サバサバした女性が見せる一抹のウェット感、そんな魅力にあふれる作風でした。「ていねいな生活」という言葉がこれほどぴったりくる人もなかなかいないと思いました。恋の歌が多いわりにえっちな歌が少ないので読みやすかったです。

 

【つむじ風ここにあります 木下龍也】

レジ袋いりませんってつぶいて今日の役目を終えた声帯

後ろから刺された僕のお腹からちょっと刃先が見えているなう

つむじ風、ここにあります (新鋭短歌シリーズ1)

つむじ風、ここにあります (新鋭短歌シリーズ1)

 

 俵万智と正反対、明日には死んでそうな作風です。「人生どうでも飯田橋」というネットスラングがぴったりきます。幻覚なんじゃないかと思う歌もあり、かなりダウナーです。ややコミカルでいながら希死念慮にすばやく届きました。

 

【渡辺のわたし 新装版 斉藤斎藤

責任ある地位の男と呼び出して詰め寄っても詰め寄っても支店長

めざめると顔をあらって靴下をはいて出かける癖があります

渡辺のわたし 新装版

渡辺のわたし 新装版

 

破調を多用し、どこか翻弄されるような作風でした。ダウナー系ではあるのですが、死にそうというよりは近づくと殺されそうです。皮肉屋っぽくもあります。都会の若者の貧困生活を彷彿とさせました。

【短歌教本】短歌のレシピ【俵万智】

前回「短歌の作り方、教えてください」で俵万智さんの教え上手に感動し、もう一冊著作を読みました。

 

senju.hateblo.jp

↑前回の記事

 

「短歌の作り方〜」は一青窈さん、つまり言葉と歌のプロに短歌を教えるという形式でした。とても興味深かったですが、なにぶん最初からレベルが高かったです。

本書は素人の投稿作を添削していくので、最初に読むならこちらの方がわかりやすいかもしれません。ああ、こういうの、私も作ってしまうなぁ……と納得しながら読み進めることができました。

 

『サラダ記念日』で一斉を風靡した俵万智さん。それまでR&W(リードアンドライト:主に小説で、読むだけでなく自分も創作をする人たちのこと)のものだった短歌を広い層の手に取らせた。しかも国語教師という職業柄、とても教えるのがうまい。何万人もの人を自分の弟子として短歌の世界に導いている。彼女がどれほど歌壇を激変させたかと思うと、なんだか背筋がぞわっとしますね。

 

短歌のレシピ (新潮新書)

短歌のレシピ (新潮新書)

 

 

【ネタバレ注意】くまのレストラン

美麗なキービジュアルと、界隈では有名なゲームクリエイターらしいとの噂を聞き予約したゲームです。ハードはiPhone。有料版の虚無編までクリアしたので感想を書きたいと思います。

 

虚無編の最後までネタバレあります。ご注意ください!

 

daigostudio.com

 

この世とあの世のはざまにあるレストランで、くまとねこが最後の晩餐を振るまうお話。ねこは記憶がなく、くまは誰かを待ち続けています。ジャンルはノベルゲームとRPGの中間くらいでしょうか。クリッカブルが多いですが、すべてを調べなくても物語を進められるようになっています。選択肢もなんども出てきますが基本的には一本道です。

 

まず目をみはるのは美麗なドット絵です。色調・輪郭、すべてがファンタジーめいた序盤の雰囲気にマッチしています。また、テキストボックスを排除することで美しい世界を画面いっぱいに楽しむことができています。大胆な配置、すごい。

f:id:senjunoriko:20190220174858p:image

↑ど真ん中に文字があり、スマフォでとても見やすい

 

 

最後の晩餐を食べにきたお客さんたちからは、記憶のかけらをもらえます。何の記憶かというと、持ち主の死因の記憶です。これは見なくても物語に支障ないのですが、見たくなるのが人の性。ここに広告・課金のタイミングを持ってきて、ゲームへのモチベーションが低い人の離脱を避けているのめっちゃうまいなぁと思いました。


f:id:senjunoriko:20190220175011p:image

f:id:senjunoriko:20190220175016p:image

↑見なくても大した支障はないが見たくなる

 

シナリオの流れのなかで、くまの探していた愛娘がねこであることが明らかになる、探していたものが目の前にあったと気付く瞬間のカタルシスは素晴らしいものでした。この設定、物語を小さくまとめやすいわ、うまく伏線敷ければ衝撃の事実を用意できるわでエモエモですね……!

 

切ないながらも穏やかな日常。そこに絶望を食らう悪魔があらわれ、お客さんたちやくまを食べてしまう。それを助けるまでが無料版のシナリオです。

満足度が高かったので続く有料版の「虚無編」も購入しました。名前がやや不穏。

 

 

「虚無編」は悪魔とともに地獄の果ての虚無へ落ちてしまったねこをくまが助けに行く話でした。前半とは違いかなり荒んだシナリオです。群像劇だった前半と違いくま・ねこ・悪魔の三者の話に集約されていってしまうので、前半が好きで続きを買った身としてはやや残念でした。

 

虚無で運命を共にしたくまとねこ。物語は虚無のなかで消えておしまい。かと思えば悪魔がこちらに語りかけてきます。

 

f:id:senjunoriko:20190220174705p:image

↑虚無の悪魔がプレイヤーに語りかけるシーン

 

消えてしまったはずのゲームを取り戻す取引を持ちかけられる。この演出はUNDERTALEで記憶に新しいものです。ただ、UNDERTALEではキャラクターが第四の壁を破りうる存在であるという伏線がなんども敷かれていたのと違い、悪魔の語りかけはいささか唐突でした。ここは悪魔のモノローグで物語が進んでもよかった気がします。

 

クリア後も物語の世界は存在し続け、スポンサーになることで更に追加のシナリオや演出を見られるようになっていました。最後まで遊んでくれたファンにこそ収益化のお手伝いをしてもらう、しかもゲームの中から語りかける。ゲームは世界や体験を買うものなのだという本質をついた収益化システム……!

 

f:id:senjunoriko:20190220174749p:image

↑ゲーム開始後からレストランの隣にあった建物を調べると

 

ゲームの完成度はもちろん、小規模ゲームクリエイター群雄割拠時代でいかに気持ちよく課金してもらうかという手腕においてとても勉強になる作品でした。

 

daigostudio.com

【俵万智×一青窈】短歌の作り方、教えてください【感想】

短歌のマイブームがおこったので、教本となりそうなものを買ってみました。選んだのは俵万智さんが一青窈さんに短歌を教える様子をまとめた本。27歳の私にはどちらもメディアでよく見た人物です。

 

教師としての職歴を持つ俵万智さん、独特な歌詞が知られる一青窈さん。この二人が織りなす講義はとてもレベルが高く、情報の密度が高かったです。だからと言って難しくてわからないなんてことはありません。短歌の教則本として実践的で分かりやすく仕上がっていました。一青窈さんの旅行記としても楽しかったです。

 

吟行会のゲストに穂村弘さん、題詠歌会のゲストに斉藤斎藤さんが呼ばれており、新しい歌人を知れたのも嬉しかったです。歌人ってなかなか知る機会ないですよね。

 

歌に詳しくなく、あまり内容のないブログしか書けないのが歯がゆいです。

最後にこの本を読んでどれくらい歌が上達したか うたの日 での得点や順位を公開してシメとさせていただきます。

 

【読破前】

お題「山葵」

毎日を泣き暮らす春になってから寿司から山葵抜くようになった

1票3Like0選評 15席

 

お題「雪崩」

妻がもう別れてやるとわめいたら、なにかすべてが雪崩ていった

2票2Like0選評 11席

 

【読破後】

お題「目玉焼き」

好き嫌い俺はないって言ったじゃん新婚のあさ半熟のきみ

2票4Like2選評 7席

 

お題「加」

ラザニアにセットのデザート加えるとなんと私となかよくなれます

3票6Like1選評 4席

 

 

 

【きたない第六ポンプ】26世紀青年【コメディSF】

コメディがみたい気分だったので、Twitterで見かけたものをAmazonでレンタルしました。

 

26世紀青年 (字幕版)

26世紀青年 (字幕版)

 

 ↑紹介文があまりよろしくない。もったいない。

 

あらすじとしては、軍事実験でコールドスリープしたごく普通の軍人男性と売春婦が、手違いで500年後に目覚めるというもの。世界は低知能化が加速して大変なことになっていました。テクノロジーの遺産でギリギリ社会が回っているものの、適切に管理できている人は誰もいないもよう。

 

紹介文では類似作品として20世紀少年とWALL.Eを挙げていますが、以前読んだSF小説「第六ポンプ」がほぼ同じ世界観でした。人類の低知能化が加速し、性に荒れゆく社会と誰も直せない水道第六ポンプを前に途方に暮れる主人公。こちらが壊れゆく全てを達観する視点だったのに対し「26世紀青年」は何もわからず楽しく暮らす明るさに焦点があたり、コメディとして仕上がっていました。

 

登場人物はみなスラム語やギャル語で話していたようです。英語に疎い自分は字幕付きでみましたが、それでもめちゃくちゃsxxtとfxxkが聞こえたので英語話者はもっと深い世界観で視聴できると思います。とにかくバカさの演出・演技が見事で、主人公とヒロインは普通のことを言っているだけなのにどんどん「こいつらすごいやつだなぁ」という気持ちに飲まれていきました。

 

一時間半浸るには濃すぎる世界観なので元気な時の視聴をおすすめします。凡人なりにがんばる主人公が健気でした。

 

第六ポンプ

第六ポンプ

 

 ↑似てる

 

 

【ソフィ ・カル】限局性激痛【原美術館】

ソフィ ・カル。渋谷のスクランブル交差点をジャックしたり、3つの個展を同時開催したりと猛プッシュされてる現代美術家。そんな彼女の個展のひとつ「限局性激痛」を見てきました。

 

f:id:senjunoriko:20190207171754j:image

原美術館はカフェ含め完全撮影禁止。綺麗な建物なのにちょっともったいない

 

かなーり好き嫌いの別れる展示かと思います。醜い部分を曝け出しつつも、細かい情報がない。その体験は本当に誰かの恋の失敗談を聞いている感覚そのものでした。生々しい痛み、ちょっとした間違い、作者が「そんなつもりでいる」ものが鑑賞者の価値観とぶつかり合って軋みます。

 

なんとなくですが江國香織作品が好きな人はツボるのではないかと思いました。

 

原美術館はその複雑な間取りゆえ、道を間違うと企画展の合間に常設展をはさんで没入感を損なってしまいます。地図を見て進むのがおすすめです。

 

 

 

-------ここから先は行きたくても行けない人向けのネタバレ感想です--------

 

 

前半部は作者が旅に出、その帰路で失恋するまでが写真と文で語られています。 奨学金を得ての旅は彼女にとって楽しいものではなかったもよう。どこか陰鬱な写真たちには真っ赤な「○○ DAYS TO UNHAPPINESS 」というスタンプが押してあります。どんどん減っていく数字。増していく不穏。そして最後に作者は、インドまで迎えにくるはずの恋人が、事故で来られなくなったというメモを受け取ります。

 

しかしその事故は足の爪が食い込んで病院に行ったというだけのものでした。作者が恋人に電話をかけると、短な言葉のやりとりだけで交際は破局します。

 

後半部、作者は痛みを忘れるため、とある活動を始めます。自分の苦しみを語り、その代わり相手にもっとも苦しかった出来事を語ってもらうというものです。

その営みは、写真および布に刺繍された文章で展示されていました。破局が成立したホテルの写真とソフィの語り。誰かの不幸語りとそのイメージ写真。それらのセットが交互に並んでいました。最初は長く恨みがましく、黒字の布に白い糸で克明に縫い取られていたソフィの痛み。それが誰かの不幸をまたぐたびに短く淡々とした文章へ、そして布と文字は明度差を失い読みにくくなっていきました。

最後に灰色の布に同色の糸で「くどくどと語るに値しない物語」と綴られて、展示は終わります。

 

 

苦痛が薄れていく様を布と文字の色を近づけていくことで表現する、その手法で強い共感に巻き込まれたのは私だけではないはず。あとどうでもいいと言えばどうでもいいのですが、誠実さを欠いたばかりに極東の美術館まるごと使う企画展になっちゃった元交際相手はいまどんな気分なんだろう……。

 

自分が失恋のただ中にあることもあり、とてもインパクトのある展示でした。他の個展も行ってみようかな。

【原作漫画】ACCA13区監察課【近現代貴種漂流】

ダルそうな有能美男子が好きな知人から勧められた作品です。アニメが放送中ですが、視聴環境がなかったため原作を手に取りました。

少しネタバレありですご注意ください。

 

あらすじとしては、13の区からなる王国の自治組織ACCA、その監察課所属のジーン・オータスが、全区視察の任務中なにかの陰謀に巻き込まれていくというもの。最初は小さな事件の連続ですが、じわじわと国全体を動かす影が迫ってきます。

 

 

 

 

まず目を引くのはジト目が魅力的な画風です。主人公ジーン・オータスのどこか達観した風情が表紙絵からすでにたっぷり醸し出されています。他のキャラクターもデザインや表情作りが秀逸です。この卓越した画力だからこそ、組織での駆け引きという難しいテーマでの創作が可能だったように思います。外見と内心が食い違った瞬間、本心が顔に出た瞬間のゾクゾク感がたまりません。

 

読み始めた当初はどうしてジーンが主人公なのか? これは何の物語なのか? など疑問が尽きず、不思議な感覚でいました。ただの無関心な巻き込まれ型主人公では、物語が早々と詰みを迎えてしまうのでは、と。

 

しかし4巻を迎えたところで全ての理由が明るみに出ます。この物語は最初からジーンが主人公でなければいけなかった! これは近現代風の貴種漂流譚だったんだ! ネタバレ回避のためにボカしてしまいましたが、すべてがスルッと繋がってとても爽快感のある瞬間です。

 

それ以降、3巻までの人間関係すべてが伏線として綺麗に回収されていく様も見事でした。全員が揃っていなければ回らない物語。広く見れば大団円だけど、一抹の切なさを残すラストも圧巻でした。


一見地味なようでいて洋画のごとき華やかさのある、味わい深い物語でした。後日談も出版されているようなのでポチっておこうと思います。

 

acca-anime.com