千住のコンテンツ感想ノート

美術展・ゲーム・書籍等の感想

東京藝大卒展 都美会場【感想】

 

第67回 東京藝術大学 卒業・修了作品展 に行ってまいりました。会場は東京都美術館東京藝術大学構内の二箇所あったのですが、思ったよりかなり作品数が多く体験も濃厚で、都美しかまわりきれず……!

 

日本画、彫刻、デザインなど美術のあらゆる分野の学生さんが学んだ成果を展示する。逆に言えば最先端のアートを俯瞰できるとっても贅沢な展覧会でした。

 

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↑accumulation/梅田怜奈

見た瞬間おもわず「かわいい!」と声が出てしまった作品群。息遣いすら感じる七宝の質感に繊細な絵付けがされている。

 

 

製作者が若く感性が現代的なので、古典だと「よさがわからん……」となりがちな私もワクワクしながら巡ることができました。触れる・体験できる展示も多くあります。なので美術館慣れしてないかたでも楽しめるかと思います。

 

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↑11.664m^3/杖谷美彩

「三畳一間のショールームです。靴を脱ぎ、中に入ってカーテンを閉め、(中略)是非、布団でぐっすりお眠りください」とのことで休ませてもらいました。美術館で展示品を独占してゴロゴロするというカオスな体験をした。

 

 

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 ↑作品名・作者パネル撮影わすれ(すみません……)

女体美がテーマの立体作品たち。なんと触れる。テーマが名言されているだけに男性は近寄りがたさを感じていたようだが、私は思う存分愛撫させてもらった。えろかった。

 

 

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 ↑二人の双子/古谷由布

彫刻エリアで一二を争う存在感を放っていた巨大作品。「彼」にとある秘密を教えられたが、体力の限界がきてその場所まで行くことができず。会場に来たらぜひ彼の話に耳を傾けてほしい。

 

 

会期が短く2/3で終わってしまうのがとても残念ですが、行けば素敵な一日となること間違いなしです。

 

第67回 東京藝術大学 卒業・修了作品展

 

Fate/stay night [Unlimited Blade Works]【感想】

Fate/stay night 発売15周年おめでとうございます。映画も上映中だけど、そういえばstay night 関連作品はひとつも触れてないな……と、まずは手軽なアニメから見てみることにしました。古い作品なのでネタバレありでお送りします。

 

www.fate-sn.com

 

私が異能バトルジャンルに不慣れなこともあり、世界観がものすごく複雑で、最初は主人公と同じくらい何が起こってるか分かりませんでした。でも魅力的なキャラクターたちがどうにも放っておけず、どんどん引きこまれていきました。そうこうしているうちにだんだんルールがわかってくる……という神業的なバランスの導入部に感嘆を隠せません。

 

英雄を召喚して聖杯を争う。正義に理想を抱いた少年が大人の正論と戦う。片方だけでも大作となりえそうなのに「英雄となった未来の自分とぶつかりあう」というトリッキーな主題にとても驚きました。聖杯戦争という複雑な舞台装置のうえでしか起こりえない戦い。それを運用するシナリオ構成力。すごかった。

 

「この戦い、回想を始めた方が負ける……!」というメタジョークをどこかで見かけましたが、異能力バトルあるあるなのでしょうか? そのときはへぇ〜くらいに思っていましたが、いざ演出として挿入されると感情移入からの死亡、落差によるカタルシスがめちゃくちゃ大きいですね! 特にイリヤスフィールの、過酷な試練に耐え抜いた魔術師としての側面を見せられたあとでサクッと目を潰されて床を這いずりまわるあっけなさ。この感覚は絶対に覚えておこうと思いました。

 

キャラクター、世界観、シナリオ、どれをとっても魅力的で、さすが長寿巨大コンテンツでした。Heaven's Feelもみにいこうかな。えっもう2章なの?

 

www.fate-sn.com

十二人の死にたい子どもたち【感想】

 映画の公開が目前に迫る「十二人の死にたい子どもたち」。積んでいた原作を読破いたしました。 

 

 ミステリーの近寄りがたさを舞台設定により解決している名著でした! ネタバレはないと思いますが、気になる方は念のためブラウザバックおねがいします。

 

十二人の死にたい子どもたち (文春文庫)

十二人の死にたい子どもたち (文春文庫)

 

 ↑いつの間にかwatabokuさんの表紙に変わっていてもう一冊欲しい

 

 ジャンルとしてクローズドサークルものです。クローズドサークルは孤島や雪の山荘など外界との行き来が隔絶された広い密室で起こる事件を扱うジャンルと言われています。

 この作品の場合、集団自殺のため廃墟に集まったけれど、なんだか一人多いうえに意識不明。理由が理由だけに警察を頼ることもできず、だからって無視して自殺を決行するのも気持ち悪い……という不穏から物語はスタートします。

 

 クローズドサークル特有の、空間が狭いゆえに場面の切り替えがしづらくダレるという問題を、間になんども多数決を挟むことで解決しているのがとてもスマートだと思いました。また、現在の議題を確認しながら多数決を取ることで、読者が置いてけぼりになるのも防いでいます。長編ミステリ、ぼーっと読んでると「今なにしてるんだっけ」ってなるよね。それを折に触れて確認したがるキャラクターがいる、という采配が見事でした。

 

 また、ミステリファンなら当然だけどライト層にとっては大変疑問な「なんでこの探偵気取りの人こんなに事件の真相究明にこだわってるの?」という部分もキャラクターがちょくちょく口にしてくれます。それに「全員が納得して気持ちよく自殺するため」という回答を用意してくれているので、安心して読み進めていけます。納得いかない人はその時どきで違うので、読者をふくめ全員がずるずると真相の全究明に転がり落ちていく仕掛けも素敵。

 

 もちろんライト層への配慮のみならず、ミステリが好きな人の興味も引くようにできていました。

 例えば、クローズドサークルは必ず開かれて終わるーーそれは分かっているけれど、この集団自殺という物語の場合「開く」とはどんな結末のことを言うのか? 子どもたちだけじゃ避けきれない警察や法の介入をどう処理していくのか?など。様々な点において設定も解決もきれいでした。

 

 さすが映画化されるだけの地力がある、さまざまな人を楽しませる作品でした。

 

十二人の死にたい子どもたち (文春文庫)

十二人の死にたい子どもたち (文春文庫)

 

 

ケムリクサ Episode.1【感想】

 『けものフレンズ』で一世を風靡した、たつき監督の最新作。ということでAmazon Prime Videoで視聴いたしました。

 

kemurikusa.com

 

 荒廃した世界について、直接的に解説はされません。しかしキャラクターのセリフひとつひとつが重要なヒントになっており、余計なことはひとつも言っていない。そんな磨き抜かれた構成はけものフレンズ同様です。

 

 赤い生物を「虫」と呼んで敵対する三姉妹。しかし彼女たちの髪や瞳の色は赤い。自分たちを「ヒト」だと言う三姉妹。しかしその身体能力や異能力は明らかにヒトではない。そもそも三姉妹……とは……人数が……?

 

 互いを思いやる姉妹の心情描写も見事です。「虫」のデザイン、霧の表現、「ケムリクサ」使用シーンの華やかさなど、見所の多いアニメでした。続きを楽しみに待ちたいと思います。

 

Episode.1
 

 

【エンディングネタバレあり】ALTER EGO【感想・考察】

 自分探しタップゲーム『ALTER EGO』のトゥルーエンドを見終えました。思いっきりネタバレしながら感想を書くのでご注意ください!

 

 初見時の感想やあらすじは下のリンクから。 

senju.hateblo.jp

 

 体験版を手にしたときから「ノベルゲーム形式で性格診断をしていくのはいいけれど、エンディングはどうするつもりなんだろう?」と疑問に思っていました。ただ秘書っぽいキャラが診断をしてくれるだけでも面白いから、オチ無しなのかな?と。

 しかし予想をはるかに上回る素敵な物語が用意されていました。

 

 このゲームの登場人物は、プレイヤーをのぞいて二人です。エゴ王。エス。どこか聞き覚えのある名前。

 フロイト派の心理学は心を三つの層に分けます。自我、スーパーエゴ、そしてエス。スーパーエゴは規範や抑圧を与える部位。エスは衝動や欲望を発する部位と言われています。(雑な説明ですみません)

 エゴ王は「選択は規範に捧げよ」とエスやプレイヤーに圧力をかける、スーパーエゴの化身でした。ゲーム中のエスはその名の通り「衝動が抑えられない」とプレイヤーにぼやきます。では、自我は?

 フロイト心理学における自我はエスとスーパーエゴの発するものを聞き届けて調整するもの。このゲームの中でその役割をしているのは。そう、二人の話を聞いた上で、選択肢をタップするプレイヤーです。気付いたときにはビビッと痺れました。精神分析だけじゃない、精神の仕組みそのものにプレイヤーを巻き込む素晴らしい構成……!

 

 序盤の選択肢は規範を重視するもの、衝動を重視するもの、中庸のものの三つに分かれており、どれをよく選んだかでルートが分岐するようでした。

 

 規範を重視、つまりスーパーエゴに肩入れしたルートでは、エスはエゴ王の批難に耐えかねて自滅してしまいました。

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↑途中から探求ページにも抑圧的な台詞が目立つようになる

 

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↑エゴ王の声が思考を埋めてゆく

 

プレイヤーはエゴ王に賞賛されますがなんだか後味が悪い。消える直前にエスが放つ「私を……けて」という声で、プレイヤーはこのゲームの目的を知り、周回プレイを選びます。なんて美しい展開なんだ。

 

 

 衝動を重視、エスの好きなようにさせたルートでは真逆。エスは世界を破壊し、衝動のまま発狂してしまいます。やはり聞こえる「私を……て」の声。ただエスを肯定しただけでは、エスを救うことはできないのです。

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↑衝動のまま発される言葉たち

 

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無表情キャラって差分少なくて済む上にいざ顔変わると効果的ですごくいい

 

 

 エスを救う道は、エスの衝動を否定するでも肯定するでもない、エスの意志を尊重し、一個人として見守った先にありました。

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 ↑もう彼女は衝動の化身ではなく、一人の少女

 

「衝動のあるところに自我をあらしめよ」はキャッチコピーでありながら、ゲームの目的でもあったんですね。エスを救おうと選択を変えてみることで、最初は抑圧的な選択肢を選びがちだった筆者の自我すらチューニングされてゆくようでした。

 タイトルの『ALTER EGO』は文字通り「自我を変化させよ」という意味だったのでしょうか。変革したのはエスの自我なのか、私の自我なのか。

 

 精神診断だけでもない、物語だけでもない、ゲームだからできる絶妙なバランスでした。こういうの作りたいなぁ! 年始から素敵なゲームに触れられてよかったです。

 

alterego.caracolu.com

【感想】ALTER EGO【見抜かれること探すこと】

体験版から心待ちにしておりました。フロイト心理学をモチーフにしたシミュレーションゲームALTER EGO』。iOS版がついに公開!

 

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↑謎の人物エスエスとの対話や心理テストが物語を形作る

 

副題は「自分探しタップゲーム」。

プレイヤーは謎の空間に招かれ、壁のような彫刻、そして謎の人物エスに導かれます。ここがどこで、何をしにきたかもわかりません。ただEGOを集めて会いに来るように言われる。ダークトーンの世界と神秘的な演出が美しく、ぐいぐい引き込まれていきます。

 

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↑どんどん迫ってくる意味深な言葉たち。手前でタップするほど取得EGOが多い

 

進め方は放置ゲー方式。タップしたり継時自動取得でEGOと呼ばれるポイントを貯めます。EGOを消費すると1話ずつストーリーが解放できます。

ぶっちゃけ大変ですが360円で大ブーストできます。課金せず迷宮をさまようかのような感覚を味わうのも風流です。

 

読書コマンドを使うことで継時取得EGOが増えます。コマンド欄に並ぶ本は自意識・自我・心がテーマの名作ばかり。小説好きにはたまらない演出です。

 

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↑読書にEGOを割いてキーワードを集めると継時取得EGOが増えてゆく

 

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↑なにをさせられているんだろう

 

エスはプレイヤーに心理テストのようなものを仕掛けてきます。答えるたびにエスがプレイヤーの心を分析し、すると不思議な鏡に欠片が満たされてゆきます。「自分探し」で埋まっていく鏡。全部埋まったとき、何が映るのでしょうか?

 

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↑あなたの鏡はどんな言葉で埋まっていくのか

 

ひりつくような緊張感の漂う世界がとても魅力的。

心理学や文学が好きな人、神秘的な空間が好きな人にぜひオススメしたい作品です。

 

App名: ALTER EGO

デベロッパ: Caramel Column Inc.

 

ムンク展&見る、知る、感じる現代の書【東京都美術館】

タイトルの二つの展示をみてきました。ムンク展のチケットひとつではしごできます。

 

www.tobikan.jp

www.tobikan.jp

 

ムンク展はさすがの大混雑。人だかりで解説が読めないことも多いため、音声ガイドのレンタル推奨です。

全体的に画家の不安が伝わってくるような画風が多いため、楽しい気分を求めてくるとちょっとつらくなります(つらかった)。

目玉作品である『叫び』は、なかなか見ないテンペラ画。初めて見る独特の質感には、写真ではわからない気迫がありました。駆け足でこれ一点見るだけでも価値のある展示だと思います。

また、ムンク展は各種コラボグッズがとても可愛いです。限定グッズは展示室内のショップにしかないので、財布をコインロッカーに入れてこないよう気をつけてください! 私は入れてきてしまいました!!

 

 

隣の展示室で開催されている「見る、知る、感じるーー現代の書」もとても面白かったです。どうにもとっつきにくい感じのある書ですが、読めずとも線の流れや余白、迫力などで楽しませてくれる作品が多かったです。

 

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↑詩集をまるごと一冊写したという書の滝

 

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↑人の背丈より大きい迫力の書たち

 

三ヶ日を過ぎるとちょっと空くと思うので、気になる方はぜひ足を運んでみてください。

【公式】ムンク展ー共鳴する魂の叫び