千住のコンテンツ感想ノート

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十二人の死にたい子どもたち【感想】

 映画の公開が目前に迫る「十二人の死にたい子どもたち」。積んでいた原作を読破いたしました。 

 

 ミステリーの近寄りがたさを舞台設定により解決している名著でした! ネタバレはないと思いますが、気になる方は念のためブラウザバックおねがいします。

 

十二人の死にたい子どもたち (文春文庫)

十二人の死にたい子どもたち (文春文庫)

 

 ↑いつの間にかwatabokuさんの表紙に変わっていてもう一冊欲しい

 

 ジャンルとしてクローズドサークルものです。クローズドサークルは孤島や雪の山荘など外界との行き来が隔絶された広い密室で起こる事件を扱うジャンルと言われています。

 この作品の場合、集団自殺のため廃墟に集まったけれど、なんだか一人多いうえに意識不明。理由が理由だけに警察を頼ることもできず、だからって無視して自殺を決行するのも気持ち悪い……という不穏から物語はスタートします。

 

 クローズドサークル特有の、空間が狭いゆえに場面の切り替えがしづらくダレるという問題を、間になんども多数決を挟むことで解決しているのがとてもスマートだと思いました。また、現在の議題を確認しながら多数決を取ることで、読者が置いてけぼりになるのも防いでいます。長編ミステリ、ぼーっと読んでると「今なにしてるんだっけ」ってなるよね。それを折に触れて確認したがるキャラクターがいる、という采配が見事でした。

 

 また、ミステリファンなら当然だけどライト層にとっては大変疑問な「なんでこの探偵気取りの人こんなに事件の真相究明にこだわってるの?」という部分もキャラクターがちょくちょく口にしてくれます。それに「全員が納得して気持ちよく自殺するため」という回答を用意してくれているので、安心して読み進めていけます。納得いかない人はその時どきで違うので、読者をふくめ全員がずるずると真相の全究明に転がり落ちていく仕掛けも素敵。

 

 もちろんライト層への配慮のみならず、ミステリが好きな人の興味も引くようにできていました。

 例えば、クローズドサークルは必ず開かれて終わるーーそれは分かっているけれど、この集団自殺という物語の場合「開く」とはどんな結末のことを言うのか? 子どもたちだけじゃ避けきれない警察や法の介入をどう処理していくのか?など。様々な点において設定も解決もきれいでした。

 

 さすが映画化されるだけの地力がある、さまざまな人を楽しませる作品でした。

 

十二人の死にたい子どもたち (文春文庫)

十二人の死にたい子どもたち (文春文庫)