書店でカドフェス2020の棚を眺めていた際、なんとなく好きそうな気がして購入しました。相性いい人をちゃんと捕まえるブックデザインってすごいですよね。とても楽しく読むことができました。
帯には「100%ダマされる芦沢作品はこれだ!(当社比)」と書かれていました。
芦沢 央先生の作品を手に取るのは初です。どうダマしてくれるのだろうとわくわくしながら読み進めていきました。
***以下ネタバレ注意***
ジャンルはサスペンス寄りのミステリ。とても仲の良い奈津子と紗英の一人称視点で物語は綴られます。不妊に悩む紗英、その夫が浮気相手の子供ができたと暴露した直後に事件は起こります。紗英の夫は死にますが、奈津子と紗英どちらが直接の死因か初めはわかりません。
読者はおそらく、紗英の夫をどちらが殺したか、どうやって殺したか、に疑問を抱きつつも「仮の答え」を持ち、それを答え合わせするように読み進めていくと思います。私もそうしました。そして、もっともっと大きな誤解に気づかないまま衝撃の終盤を迎えます。
仲の良すぎる友達のように描写されていた奈津子と紗英。彼女らは母娘であり、奈津子がまるで自分の娘のように育てているのは紗英の姪つまり孫だったのです。
この作品のすばらしいところは、この叙述トリックがそのまま事件の動機であり、核心であるというところです。孫を自分の子のように扱い、娘に自分をちゃん付けで呼ばせるくらい、自我の境界が壊れた奈津子。奈津子がいないと何もできず、押しつけられた理想のプレッシャーで不妊治療をしてきた紗英。
浮気相手が妊娠したと知ったとたん夫にアレルゲン入りの麦茶を仕込む紗英。目の前で婿が死に、まるで自分が殺したかのように隠蔽する奈津子。どちらの動きもこの母子密着が根になっています。
これだけ大掛かりなトリックを出生・生育・心のかたち・事件にまでつなげられる作者はそうそういないと思います。数十年かけて折り重なった歪みが、人を殺す。その圧倒的なリアリティが騙される快感と共に重厚な読後感を作っていました。