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【ネタバレあり注意】機動戦士ガンダム 水星の魔女【人生初ガンダム感想】

私の好きそうな話だと教えていただき、人生初のガンダムを観ました。とても面白く最終回まで追いかけてしまいました。

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最後まで観てから振り返るあらすじとしては、娘のためにこの世とあの世を近づけようとする魔女と、その魔女に手段として作られた別な娘、別な意味でこの世をあの世に近づける「戦争シェアリング」の大本営だった財閥の娘が、互いの心を乱すことで生まれる物語でした。

 

作中世界ではインターネットとは別のパーメットリンクという通信網が存在して、正確なところが定かでないまま使われていることがうかがえます。パーメットは人間の精神との親和性から高速・正確な通信を可能とする反面、過剰に接すればその情報量から精神を焼き切ってしまうようです。パーメットへの高い親和性を持つ幼子のエリクトが戦争の影響で死に瀕した時、母親はパーメット網にエリクトの精神を転移させ、その後いつしかエリクトの居場所としてこの世を人間が耐えきれぬような密度のパーメット(データストーム)で満たしてしまおうという野望からヴィランになったと思われます。このあたりの流れも説明は丁寧ながら難解で、ロボットバトルとして存じていたガンダムがこんなにハードなSFだとは思わずびっくりしました。

 

エリクトのクローンとして生まれたスレッタが学校に入るところから本編はスタートします。特筆すべきはここで出会い、ヒロインとなるミオリネの存在です。ミオリネは戦争の主導権を握る大財閥の娘で、経営学に精通しながらもエンジニアリングは疎く、ロボット兵器の操縦もできず、物語序盤時点では戦争を目の当たりにしたことはありません。戦争やパーメットの世界に高い縁と親和性を持つ言わば「魔性の」スレッタやその母と違い、彼女は徹底的に金と権力の「冷たい現実」に生きる申し子です。あの世しか見ていない母親と、この世しか知らないミオリネの間に挟まれて、どちらへの理解も諦めないスレッタの努力のよって物語は進んでいきました。

 

終盤にはデータストームに触れると死んでしまった人に逢えるという演出が見られます。パーメット粒子は宇宙に広く存在しているので、生きた人間には知覚できないだけで死んだ人たちはいつも側に居たんだとも言い換えられると思います。パーメットを濃く偏在させてこの世をあの世に近づけずとも、遍在するパーメットと変わっていくこの世に魔女が納得した、そんなラストに思えました。いなくなったエリクトを受け入れるのかと思いきや、この世とあの世の狭間の存在としてエリクトが在り続けたので驚きましたが、これも魔性の母と現実をゆく婚約者ミオリネの架橋となるスレッタがいたからこそのラストなのかもしれません。このラストが一時的な解決でなく世界を落ち着けたのは、大規模な財閥解体を行ったミオリネなしでは成し得なかったものでした。

 

スレッタや他の登場人物の思想信条が、その変化が、ロボット兵器での戦闘スタイルに反映されてくるというのが、この作品の醍醐味でしょう。難解な設定の傍ら視聴者を置いてけぼりにしないのは、こうした体で表現する、動きでわからせる演出の成せる技だと思います。舞踊のように心を直裁に表現するバトルシーンは、この作品に不可欠なのです。なぜガンダムシリーズが長く愛されるのか、その一端を見た気がします。浅学なせいで読み取れませんでしたが、きっと登場人物が選ぶ機体の機能や装飾にも思想信条と成長が反映されていて、故にプラモデルが人の心を掴んで離さないのは想像に難くありません。

 

ガンダムシリーズの創始メンバーもご高齢と聞きます。ロボットバトルによる思想のぶつかりあいという表現様式は、CG技術の進歩によりまだ伸び代を残すように見え、素敵な後継者が育つのを願ってやみません。次のガンダムもぜひ拝見したいです。

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