千住のコンテンツ感想ノート

美術展・ゲーム・書籍等の感想

#エッチな小説を読ませてもらいま賞 落選作品『Ruby』

【注意】

 本作品は「エッチな小説を読ませてもらいま賞」への応募作品です。賞への応募作品を読む際の注意事項は下記になります。ご一読ください。

大切なお知らせ | エッチな小説を読ませてもらいま賞

 

 また、傷口への挿入を伴う性的・暴力的な描写があります。苦手な方はご注意ください。R18およびR18Gです。

 

 

 

 

 

Ruby

 

「先輩!」

 叫ぶ彼女の声が明瞭に思い出されます。振り向くと彼女が必死の形相で私に手を伸ばしていました。次の瞬間二人まとめて車にはねられ、花壇に叩きつけられました。サルビアの向こうに彼女の首がありました。彼女はうめき声をあげました。花壇の淵に打ち付けた首筋がぱっくり割れ、血が溢れ出すところでした。清らかな朝の光。すっぱい鉄の匂い。偽物じみた赤のサルビア。それらを額縁のように纏い、溢れて止まらない本物の赤。流れとねばつき。その照りとぬめりがあまりにも鮮烈で、あまりにも鮮烈で、もともと少しずれていた私はあの日から完全におかしくなってしまいました。

 

「先輩!」

 叫ぶ彼女を想像しながら私は果てます。突き抜ける快楽のなか、放たれた私が彼女の首筋の血と混じり合い、滴る様を思い描くのです。傷口に私がしみて、彼女はうめき声をあげるでしょう。彼女の中で私の濁りと彼女のぬめりが溶けあいます。

 あてたティッシュの隙間から私が溢れました。現実に引き戻され、慌ててティッシュ箱に手をのばします。

 中高一貫の男子校で育ち、大学も勉強だけして育ちました。女性と五秒以上話したことなど数回もなかったと思います。そしてただでさえ女性の少ないIT業界でもっと男ばかりのサーバーサイドエンジニアになりました。

 二年経ってフロントエンドの部署に彼女が入ってきました。その更に一年後、打ち合わせで初めて話しました。違う世界の人間だ。はっきり思ったのを覚えています。その場にいる全ての人の役割と顔色を常に伺い、適切な自分を演じられる人でした。その様はフロントエンド、客が見る部分を作るエンジニアらしい気配りがありました。後で知りましたが前職は宝飾品ブランドの営業だったそうです。無骨なデータのやり取りを黙々と合理化して暮らしている私とは真反対の人種です。いや、違う生き物とすら思いました。ただでさえ女性は苦手なのに、彼女に会うと徹夜明けの太陽にあてられたようになり、どちらかというと嫌いでした。今も嫌いです。

「ああいうときは逃げてとか避けてって言わないとダメですよね」

 事故について彼女はそう反省していました。そう言ってくれたら彼女は怪我をしないで済んで、私が赤いぬめりに狂うこともなかったでしょう。

 

 彼女と仕事で話すことはほぼありません。席も離れていて大部屋の東の隅と西の隅です。でも女性の少ない職場ですので、声が高くよく笑う彼女は、いると気配でわかりました。白い服をよく着るせいもあるでしょう。今日も談笑する姿が視界の端にちらついていました。ついうっかり昨晩の空想を思い出してしまい、私は手洗いに立ちました。

 落ち着いてから自動販売機に寄りましたが、どうにも芯が火照ってなりません。ホットコーヒーを買ったはずなのに缶がぬるく思えました。

「先輩」

 不意に元凶から声をかけられ、私は買ったばかりのコーヒーを落とします。

「すみません、びっくりさせちゃいましたね」

 彼女は笑いながら缶を拾います。長い髪が流れ、真っ赤に膨れた傷跡が露わになりました。私は体が反応せぬよう、歯をくいしばります。

「はい、これ」

 彼女は缶コーヒーに温泉まんじゅうを添えて渡しました。私が歯をくいしばったまま受け取ると、彼女は聞いてもいないのに言いました。

「先週の連休に彼氏と行ってきたんです」

 彼氏いたのか。疼きと共に、どこか安心しました。

「ありがとうございます」

 私は心から言いました。彼女は苦笑いしました。

「なんだか大仰ですね。数が足りなかったので、サーバーサイドの皆さんには内緒ですよ」

 彼女は軽く一礼して立ち去りました。踵を返す時にまた少し、傷跡が見えました。親しくもない男を庇って、顔の近くにできた傷。大切な恋人に大きな亀裂をつけられて、彼氏さんは私にお怒りでしょうか。恨んでいるでしょうか。

 ゴミ箱に放ったコーヒーの缶が大きな音を立てました。

 一生痕が残ればいい。

 

 仕事に戻っても空想ばかりで全く捗りませんでした。常夜灯に照る傷跡を指先でなぞると、彼女はうめき声をあげます。まだ痛みますか。彼女は掠れた声で「はい」と言います。ぞわりと全身が昂り、私はいきりたった私の先を、彼女の傷跡にあてます。私のきっ先と彼女の傷跡の色はよく似ていました。私は彼女の傷跡に私自身を擦り付けます。彼女が痛そうにうめくのを聞きながら、何度も何度も擦り付けるのです。怒張し、今にもはじけそうな私を感じ、彼女は叫びます。

「先輩!」

 彼女と絆を結ぼうだなんて、そんな夢は見ません。

 

 幸いトラブルもなく仕事を終え、コートを着てこなかったことを後悔しながら帰路につきました。

 毎夜のようにあの日の花壇の前を通ります。今朝まで草ぼうぼうだったはずですが、きれいに耕され、手書きの『種を蒔きました ゴミを捨てないで』という看板が立っていました。一緒に車に弾き飛ばされ、彼女が首を打ち付けた場所がどこなのか、もうわかりません。

「先輩」

 生唾を飲み込んでから振り向きました。彼女が小さく手を振りながら近づいてきます。白いコートの袖から覗く小さな手に、指輪が光りました。

「お疲れ様です。この花壇、誰が手入れしてるんでしょうね」

 彼女は私を追い抜くのかと思いきや、隣に立ち止まりました。乾いた風が通りましたが、血の匂いはしてくれません。

 ひとしきり花壇を眺めてから、彼女は言います。

「私、あの日、先輩を助けられてよかったです。助けられないのは怪我するよりつらいですから」

 薄々勘づいていました。彼女が助けたのは他所の部署のろくに話もしない名前も覚えていないどうでもいい先輩の私なんかじゃなく、過去の彼女自身か、助けられなかった誰かの幻影であることくらい。

 視界の端でずっと何かが光っています。目をやると、それは深紅の石が一直線に並んだ指輪でした。彼女は私の視線に気づき、左手を掲げます。

「婚約指輪です。ダイヤの指輪って大仰で好きになれなくて、普段使いできそうなのにしてもらいました。ルビーのエタニティ」

 本物は多分初めて見ました。一列に潤む血色の粒に目を細めます。彼女は手を首の近くに掲げてくれています。

「お似合いですよ、とても」

「相変わらずよく分からないところで大仰ですねぇ」

 気持ち悪いと言えばいいのに。彼女のひきつった笑みに、粘度の高い、重い感情が湧き上がります。もうどうでもいいのです。彼女に好かれるか嫌われるかなんて。いま私が興味を持っているのは、その傷が、傷の記憶が、いつまで生々しくあってくれるかだけ。何度私を怒張させてくれるかだけ。本当です。幸せそうに微笑む彼女と体を重ねる? バカ言わないでください。そんな想像できるわけがないでしょう。こんな女どうでも構いません。私には愛されることはおろか、人を正しく愛することすらできやしないのです。そんな方法、どこで習えるというのです?

 足早に立ち去る彼女に背を向けて、私は公衆トイレに入りました。妄想の中でひきつった笑みの彼女の髪を掴み、壁に押し付けます。ファスナーを下げた私は、傷跡を破り、溢れる赤に埋まり、無理やり想いをさし入れるのです。

 

 

【注意】

 この作品はフィクションであり、暴力行為を正当化・推奨するものではございません。恋を否認するあまり拗れるのがエッチだと思っただけです。

大切なお知らせ | エッチな小説を読ませてもらいま賞

【多様性の混沌を生きる】六本木クロッシング 往来オーライ!

近年の世相と現代アートを振り返る一大展示、六本木クロッシング。その2023版が開催と聞き、飛んでいきました。

 

往来オーライのサブタイトル通り、訪れた六本木は往来が回復しつつありました。コロナ禍で行き来が制限され、逆説的に向き合うこととなった隣人の多様性。そんなテーマで集められた作品たちは非常に密度の高い混沌でした。

 

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【青木千絵/BODYシリーズ】

発泡スチロールに漆をコーティングした彫刻作品。その独特の質感、何を孕んだかはち切れんばかりの肢体に畏怖を覚える。


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金川晋吾/長い間】

人物ポートレートは「よく知らない人の写真を見せられてもなぁ」と苦手だった。しかしこの作品群は、失踪していた伯母を撮ったもので、作者も彼女をよく知らない。背景が広大な余白として鑑賞者を圧倒する。

 

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松田修/奴隷の椅子(作品撮影禁止のためキャプション画像)】

スナック太平洋のママに半生をインタビューする、という形式の映像作品。無知と貧困と暴力にまみれた暮らしをつまらないダジャレで茶化したあと「そうやって生きてきたんや。わかるかなぁ? わからんやろなぁ〜!」と怒気とも思える口調で念押ししてくる。六本木ヒルズの美術館へ来るような私たちには、きっとわからない。

 

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【やんツー/永続的な一過性】

ロボットが無分別にレプリカ作品を選び、展示場所に運ぶ。国宝のレプリカから、奥には一般的な解釈ではゴミのレプリカまで見える。人のバイアスが存在しない美術展示という試みのようだが、運搬ロボットに仕組まれたプログラムは鑑賞者から見えないので、解説すら欺瞞かもしれない。

 

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【市原えつこ/未来SUSHI】

未来の寿司屋というコンセプトの大型SFインスタレーションTwitterの悪ふざけにノリが近い。回転寿司は日本の縮図としてしばしばニュースを賑わせているが、流れてくる珍妙な寿司も全く訪れ得ない未来とは言い切れず、始終絶妙な顔をしてしまった。

 

いつも書いていますが、森美術館は私語も写真もOKで初心者も親しみやすい美術館です。しかし内容はマニアも唸る密度で、現代アートに苦手意識がある人ほど言って笑ってきてほしいなと思います。今回も涙ぐんだり笑ったりの展示に大満足でした。この混沌とした隣人たちが街に溢れることを、多様性の往来を愛せる日本社会になりますように。

 

※記事中の写真は「クリエイティブ・コモンズ表示 - 非営利 - 改変禁止 4.0 国際」ライセンスの下で許諾されています。

【男性論6冊連続ブックレビュー】男の先輩と喧嘩した

 その男性は職場の先輩であり、パートとして入ってきた私を、知性ある人間として丁重に扱ってくれた。当時、非正規雇用で体が弱く貧しい身なりの私を一人前扱いしてくれる男性はほとんどいなかった。彼がくれた古本で私は資格を取得し、入社試験にトップで受かって正社員となった。私は先輩を見かけると大喜びで話しかけ、いつしか毎夜駄弁るようになっていた。私が大学に入り直すつもりで、あなたが専門とする学問にも興味があると言うと、彼はホワイトボードの前に立った。

 教える教わるの関係になったのは間違いだっただろうか。いつしか彼は一方的に話すようになり、私の話を早々に切り上げるようになり、私の言葉を取り合わなくなり、私の知性を否定するようになった。ある夜、私はホワイトボードにこう書いた。『今日はホワイトボード使わないで雑談しましょう。信頼関係の維持は自己開示の応酬から!』彼はそれを見てこう言った「個人情報なので勘弁してください。話すことなんてないですよ」。私は腹を立てて帰宅した。

 短気は謝罪したがそれ以来、彼は高圧的な態度しか取らない。

 どうして男性ってこうなってしまうのだろうか。その謎を探るため、私はAmazonの奥地へと向かった。

 

一冊め:どうして男はそうなんだろうか会議

 以前本屋で見かけたのを思い出し、真っ先に手に取った。今の感情とぴったりのタイトルだと思った。

 男性論のフィールドで活動している研究者等を次々に呼んだ、対談の記録となっている。ゲストは全員が男性だ。「女性が勝手に語る男性論なんて」という言説が最初から封じられている。

 対談を横目に見る形となるので、言説には手心がない。当事者が読むには耳が痛すぎる気もするが、知りたいことがシャープに表現されており、知識欲が満ちるのを感じた。対談がそのまま登壇者の著書の要約のようになっていることもあり、次のステップにも進みやすい。

 

二冊め:「非モテ」からはじめる男性学

 一冊めの対談に登場していた「ぼくらの非モテ研究会」代表の著作。

 対談形式では切れ味の鋭い発言をしていた著者だったが、今回は読者の視線を想定しているぶんの優しさを感じる。新書という読みやすい薄さ、持ち歩きやすさも相まって、気負わず読むことができた。

 しかし文体の柔らかさに反し内容は濃い。非モテの陥ってしまう負のスパイラルを、男性同士の関係、男性対女性の関係から解析しており、個人の責に終わらない。「追い詰められる非モテ・自分を追い詰める非モテ」の図からは、女性からは見えない男性社会の力関係が見てとれる。人間性を剥奪された男性に、女性の人間性を尊重するのは難しいだろう。

 

三冊め:よかれと思ってやったのに 男たちの「失敗学」入門

 一冊めの会議のホストの著作。近所の書店には女性向けエッセイのコーナーにあったが、内省する男性向けに書かれている。

 多くの女性から集めた悩み相談を、男性に広く見られる失敗ごとに分類するという方法で描かれた本。文章も平易で、ジェンダー論ではなくエッセイの棚に置かれていたのも頷ける。繰り返し登場するのは、男性ゆえの優位性をふりかざしてしまうタイプの失敗だ。身体的にも社会的にも強大な側が、それを利用して不機嫌や無関心を「便利に」使ってしまうという、暴力の3歩手前。踏み止まれたら、本当のプライドを持って生きられると思う。それはこれから歳をとり、職位を上げていく女の私も持っていなければならない矜持だ。

 

四冊め:女性学・男性学

 人文社会系入門書のレーベル、有斐閣アルマのもの。良書が多く、本書も例に漏れない。ジェンダー論の初学者が直面する難しさとして「自分のいる側の主張しか信じられない」があると思うが、歴史経緯と数値データを詳細に踏まえながら具体例が語られており、説得力の塊である。

 特に出色なのは、ジェンダー論の重要な両輪として男性学の視点を最初から重く扱うところだと思う。ジェンダー論の入門書には、被差別階級である女性からスタートし、そして”ついでに”男性の話もするという姿勢に終始してしまうものも多い。

 若者向けに書かれており、考え方の可塑性を信じるような書き方がされているため、攻撃性がなく受け入れやすいと思う。ただ今まさに目の前の男と喧嘩している私が読むには巨視的すぎた。

 余談だが、弊社では地位の高い人ほど中性的であり、それを不思議に思っていた。この本を読みながら、中性的振る舞いは男に生まれた有利を武器にしなくても仕事ができるという、多様性の時代をリードする覚悟ができているという、令和の有能さの主張なのだろうと思った。

 

五冊め:マチズモを削りとれ

 一冊めのゲストの著作。若い女性編集者の感じる怒りを、大柄な男性である筆者が体験してみるという形式の連載エッセイ。まだ声を奪われていない編集Kさんの怒りと、優位な立場に生まれながら「男、めっちゃ有利なのだ。男、めっちゃ優位なのだ」と唱えながら世界を知ろうとする筆者の姿に強く勇気づけられる。Kさんについて「まだ声を奪われていない」と表現してしまったが、生きづらさを諦めてしまい、抗議の声を奪われたと感じているのは私だけではないだろう。

 先輩が私の話を取り合わなくなって、ここに載っているようなマチズモに繋がりそうで怖かったのだと、やっと声になった。

 

 

六冊め:説教したがる男たち

 五冊めの中で引用されていたエッセイ集。私の出したかった声はこれだ、と思った。表題作を読みながら少し涙が滲んでしまった。一人前の人間として発言を取り合われなくなった。その程度、ではないのだ。繋がっているのだ。人間性を踏み躙られることに。社会にはびこる重苦しい悲劇に。その悲しみを圧倒的な筆力で畳み掛けてくる様は、時間を感じさせないプロのスピーチのようで、いつの間にか読み終わっていた。

 

 

 『今日はホワイトボード使わないで雑談しましょう。信頼関係の維持は自己開示の応酬から!』

 おどけた丸文字でそう書いたとき、私の手は震えていた。勤続年数、学歴、性別、健康状態、何を取っても彼の方が強い。彼が私を拒否するのなんて簡単だ。それでも親密な上下関係ではなく、信頼関係がほしかった。

 信頼関係は自己開示のやりとりによって作られるというのは、他ならぬ彼がくれた心理学書にあったことだ。なのにあっけなく拒否されてしまった。あの日私は怒って帰ったというより、悲しくてあの場にいられなかったのだ。

 降りてこい。そう思った。私に一方的に話せる場所から降りてこい、と。どう言ったら伝わるだろう。何をすれば伝わるだろう。彼の知性とプライドは、今どちらが優勢だろう。彼が私の知性を信じてくれたように、私は彼の知性を信じられるだろうか。

【ネタバレ感想注意】機動戦士ガンダム 水星の魔女 Season1【初ガンダム】

 ガンダムシリーズはひとつも観たことがなかったのですが、趣味の近い周囲の評判があまりにも高かったため、初めて視聴しました。

 

g-witch.net

 

 ストーリの主軸としては、強力ながらパイロットの生命を脅かしてしまうロボット兵器操縦技術「ガンドアーム」とガンドアーム搭載機「ガンダム」を巡るSFとなっています。学園のパイロット科に編入してきた主人公のスレッタが持ち込んだ機体エアリアルは、果たしてガンダムなのか? もしガンダムならなぜスレッタは無事なのか? と謎が謎を呼ぶ展開となっています。

 

 しかしSeason1で目立つのは物語の第二軸である、親子の確執の物語でした。学園では資本力のある会社の役員血族や社員血族が権力を握っていたり、争いを裏工作ありの不平等な決闘で白黒つけたり、かなり治安の悪い状態になっています。ストーリーの端々から伺うかぎり、宇宙開発の高度化に伴い国家概念が崩壊し、人々の感覚が中世的貴族社会に逆戻りしてしまっているようです。その中で「親の政争の道具にされてしまっている子供」と「社会のなかで上手くやるにはそうするしかない親」の確執がスレッタたちの日々を転がしていきます。

 

 既に要素がかなり多いのですが、観ていて散らかっている感じはありませんでした。この中世的な世界観のおかげで日々あたりまえのように決闘が開催され、決闘シーンでは非常に美麗なロボットアクションを楽しむことができます。政略結婚の道具にされてしまっている子供たちの間に芽生える愛憎からは学園ラブコメディの要素が生まれます。有能な学生たちが貴族社会を戦ったり利用したりするサクセスストーリーも面白いです。さすが世界的有名シリーズ、巧みな構成にうなるばかりでした。

 

 Season1最終話近くでは、メインヒロインとライバルが父親と和解するシーンが見られました。親子の確執の話はここで終わり、Season2からは別な物語が始まるのでしょうか? さらに終盤は学園を離れた際、テロリストの襲撃を受け、初めて決闘でない本物の戦争が発生します。気弱な主人公が殺人の覚悟とともに血飛沫を踏み越えるシーンは、心の痛むものがありました。また、ガンダムを兵器として量産して売ろうとしていたメインヒロインが、目の前でガンダムが人を殺すのを見て「人殺し」と恐怖する最終話は強烈でした。彼女たちの中で確かな手触りを持ってしまった兵器と戦争は、彼女たちの生活をどう変えてしまうのでしょうか。Season2が待ち遠しくてなりません。

 

 

g-witch.net

 

射精道

 Amazonを見ていたら唐突におすすめされ、その場で購入しました。大学一年生のときは精液検査を専攻しようと思っていたくらい、精液の好きな女でした。最初の恋人が適切な対応で性への肯定的な感覚を育てくれたおかげだと思います。結局精子から転じて遺伝子検査を専攻しましたし、今なお興味関心は高いままです。あまり期待しないで数のうちとして手に取りましたが、空前絶後の良書でした。

 

 

 本書P24によると「『射精道』とは、陰茎を持って生まれ、性生活に陰茎を使う男性が守るべき行動規範と(中略)機能性を維持するための知恵を言語化してまとめたもの」だそうです。難しそうですが、正しい自慰行為や性行為の心構え、陰茎の手入れなどを短く平易な言葉で解説する新書です。泌尿器科医師として性知識の不足を原因とする患者さんたちに向き合い続けた著者の綴る解説は、現場感覚に裏付けられたツボ選びと温かな慈愛に満ちています。

 

 先に引用したように、基本的には男性読者が想定されていますが、私は女性こそ読む価値のある本だと思います。女性をパートナーに選ぶ男性に生理の知識が必須であるように、陰茎を持って生まれた者を正しく愛するため、女性も射精の知識を得てこそ豊かなパートナーシップが生まれるのではないでしょうか。

 

 また、この本を読むと「こんなに心根のまっすぐな男性もいるんだな」と心強くなることができます。女性には少なくないと思いますが、私も利己的なパートナーに心身を傷つけられ、男性は女性を大切になどできないと見下していた時期がありました。そんなとき、持って生まれた武器と正面から向き合い、本物のパートナーシップを望む男性もいること、そんな男性のための本があることを知れたらどれほど回復が早かったでしょうか。

 

 思春期編から中高年編まで網羅されており、読者の年齢も選びません。ぜひ一家に一冊と強くおすすめしたくなるような本でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

基本情報技術者試験おすすめ参考書等

 基本情報技術者に合格しました。今どこかぽかんとしながら机の上を片付けているところです。追い込みの反動か現実味がありません。

 私はIT企業勤めでもITエンジニアでもありません。今まで接してきたIT系の皆さんの、勉強して当たり前、得た知識は広めて当たり前、という風土に憧れての受験でした。となれば私も合格にあたり、お世話になった本やウェブの情報を広めてこそでは? 

 ということでまとめていきます。

 本選びは読者との相性もけっこう重要だったりするので、まず受験前の私のレベル感から。

 ・大学は理系の生物系だった

 ・ティラノスクリプトで簡単な条件分岐のあるノベルゲームを作ったことがある

 ・ITベンチャーや企業のIT部署で事務員の経験がある

 ・現職が事務員で一日中エクセルを使っており短いマクロも組む

 かなり耳年増な状態でスタートしたことは否めません。似たような背景のかたは、同じような本でコツコツ問題演習すればきっと合格できると思います!

 

 

↑基本の教科書としたものです。まずこれを2周ほど通読し、掲載された問題を解き、間違えたところに付箋を貼って隙間時間に解き直していました。その後付属のアプリで過去問演習を始め、間違った問題はキーワードを索引から引いて単元ごと読み直す、ということを延々繰り返していました。午前試験(A試験)で使ったのはほぼこれ一冊です。

 

 

↑薄くて小さく、単元が短く、出先で学習しやすい魅力的なドリルです。SQLを本格的に使うのは午後試験(B試験)からですが、重い教科書を持ち歩けない日の悪あがきに午前(A試験)前から着手していました。

 

 

xtech.nikkei.com

↑計算問題に躓き、藁にもすがる思いでググったら出てきた記事です。学術界の人が見たらちょっと下世話に思うのではと感じるくらい実用的で、すぐ得点力になる連載でした。ラーメン屋や病院の待ち時間に読みました。

 

 

↑午後試験(B試験)って何を選択すればいいんだ。迷ってまず買った本です。一通りの単元を解いてみて、特に性に合いそうな問題を選びました。何がわからないか分からない状態でスタートしたので、まず解いて、五分手が止まったら解説を読んでしまうという使い方をしました。

 

 

↑午後試験(B試験)の難関である、アルゴリズム表計算。この本で基礎を詰め込むところからスタートしました。スクリプトもマクロも経験があるとはいえ独学で基礎もガタガタだったため、練習問題は2周しました。

よく見たら監修がSQLドリルの作者さんです。大滝みや子様には足向けて寝られないです。

 

 

www.pref.ibaraki.jp

↑県の労働政策課が主催するセミナーです。無料で茨城大学などの先生の講義を聴くことができました。アルゴリズム表計算の高得点(共に88%)はこのセミナーのおかげです。ただ「大学の先生」のお話なので、ここに「」が付く理由がピンと来ない人にはおすすめするか悩むところです。資格に受かるだけでなく、長く使える基礎が欲しい人向けかなと思います。

 

 

www.fe-siken.com

↑買った午後問題集ではすぐに分量が足りなくなりました。後半はこちらのサイトでの問題演習がメインになっていきました。過去問が整理されていて使いやすいです。解説もある問題が多いです。

 

 

www.youtube.com

↑午後試験(B試験)直前に体調を崩し、机に向かうのが難しくなりました。ふだん動画をまったく観ない私が「何もやらないよりはましだろう」とごはんを食べながら流していた動画です。非常に説明が丁寧で、基礎の抜け漏れを埋めることができました。非IT系の受験者は午前(A試験)をこの動画から始めるとよいかもしれません。

 

 

 まとめて眺めると無数の「先生」の力で受かったことが実感されます。ありがとうございました。

【ネタバレ注意】すずめの戸締まり 感想【今ここと繋がる扉】

「君の名は」「天気の子」が素晴らしかったので、同監督の新作が公開されたと聞き、早速観にいってきました。

 

suzume-tojimari-movie.jp

 

全国に散らばる災厄の扉を閉めていく話とのことで、最初はファンタジー、フィクションとしてのんびりと観ていました。地震の描写があることは事前に警告されていましたが、まぁ日本人にとってメジャーな災厄といえば地震だろうなとしか思っていませんでした。

しかし後半で度肝を抜かれることになります。

すずめが扉の向こうに囚われた草太を助けるため、子供のころ迷い込んだ扉を探そうと日記帳をめくると、黒く塗りつぶされたページの日付が3月11日なのです。すずめの人生が、彼女の強さと優しさが、圧倒的なリアリティを持った瞬間でした。物語が、今現在と地続きのものとして立ち上がり、その後は他人事としてみることができませんでした。すずめの「死ぬのは怖くない」が「死ぬのは怖い」に変わった瞬間、彼女が本当に大災害を受け入れた瞬間に見え、涙が止まりませんでした。

 

地震には敵がいません。理不尽に見舞われながら、恨む相手がいない。それはとても苦しいことです。多くの理不尽があやかしで説明されてきたように、恨む相手のなさにあやかしの形を与える、物語られる物語ることでしか呼べない救いもあると思うのです。

また、最後草太は、扉は人の温もりが遠ざかった場所に開くと言いました。震災から十年余、この物語が果たす役目の大きさは計り知れません。

 

しかし草太はイケメンなばかりに無自覚にカミから人間への恋に割って入り、椅子に変えられてしまったように見えます。イケメンも大変ですね。全体的に理不尽への相対が巨きなウェイトを占めるこの物語を説明するような理不尽。そして形見のイスの存在感と、淡い恋心と、すずめの性格が響き合い、すずめを物語に巻き込む上で自然な展開となっていました。ただのイケメンとの旅であれば、これほどのカタルシスは産まなかったように思います。

 

細かく語りたいところはたくさんありますが、早めに観にいくと貰える小冊子「新海誠本」と内容が被りそうなので筆を止めます。このあとは「新海誠本」のインタビュー等を読んで余韻に浸りたいと思います。