今年の本屋大賞受賞作は、ロリコンものですがそんな一言でくくることはできない複雑な感情を……という評判をみて「お! 純文学界いつものめんどくさいやつじゃん! 絶対好き」と思って買ってきました。
あらすじとしては、世間的に見たら誘拐犯の佐伯文と被害者の家内更紗が、互いへの感情と世間の目の乖離に苦しみながらそれぞれの人生を紡ぎ、そして再会するという話です。一貫して「事実と真実は違う」というテーマに沿って進んでいくため、とても読みやすい物語です。
主人公とヒロインの関係に性愛はありません。そのあたりに「さすがBL作家だな」と唸りました。(私の観測するかぎり)BL愛好家は「愛」の定義に非常に敏感な傾向があります。ただ惚れてセックスをするものは無粋とすら扱われることもあります。男性同士の性行為を観測して愉しむBLと前述したようなBLの間にある溝は、BLを嗜まない私から見てもマリアナ海溝くらい深いものです。
そんな土壌で育ったからこそなぞれる「愛」の輪郭は、文学界にとって新鮮だったのかもしれません。
また、同じ傾向はロリコンの界隈にも言えます。イエスロリータ・ノータッチはネットスラングとしては有名なものです。しかしむしろ禁断の性行為に至るまでを重要視する作品群もある中で、現代文学界では比較的珍しい感覚かもしれません。そういう意味でも作者の強みが生きる題材選定だったと思います。
文体やストーリーの流れそのものにはクセがなく、だからこそ作者の強みと特徴が浮き彫りになっています。映像にしてもR15レベルのシーンまでしかなく、万人受けすると思います。本屋大賞の受賞も大きくうなずける作品でした。